まだ、40代半ばだった豊田Gazoo事業部主査の取材では「豊田家にしては、冗舌な人だな」という印象だった。筆者は現役記者時代に豊田英二氏、豊田章一郎氏に何度も取材したことがあるが、共に「寡黙で重厚なタイプ」だったからだ。

 その後、豊田章男氏がトヨタのトップに就任すると「もっといいクルマを作ろうよ」「トヨタらしさを取り戻そう」という掛け声の下、トヨタを成長させてきた。

 だが、豊田氏には「マスコミ嫌い」「裸の王様」といった“アンチ章男”の声も聞かれ、毀誉褒貶(きよほうへん)が相半ばする人でもある。「『モリゾウ』のドライバーネームでのレース活動は大メーカーのトップとしてはどうか?」「しゃべりすぎ」との批判も受ける。そうした“外野の声”を打ち消すほど存在感を強めているのが、今の豊田氏といえるだろう

 豊田氏が53歳でトヨタ社長に就任してからトヨタは大きく成長し、本人は69歳と古希を目前にしている。だが、今回のトヨタ新プロジェクトの動きやJMSに向けた活動を見ていると、豊田氏のリーダーシップがさらに強まっているだけでなく、それに対して大きな期待が掛かっていることも確かだ。また、新ブランド体制をスタートさせるトヨタの方針だけでなく、日本自動車会議所の会長を豊田氏が務める中、自動車業界全体にどのような影響を発揮していくか、改めて注目していく必要がある。

(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)