ただ、同時に「400系」は技術的限界も抱えていた。1990年代前半は東海道新幹線「300系」に代表されるように、小型・高出力かつメンテナンス性の高い交流電動機の導入と、それを活用した高速化が進んだ時期だったが、「400系」は技術の安定性を重視し、従来型の直流電動機を採用した。

 山形新幹線の開業当時、東北新幹線の最高速度は時速240キロで、「400系」の最高速度も同様だった。開業前の試験でそれ以上の速度を出すと、直流電動機特有のフラッシュオーバーと呼ばれる短絡現象が多発した。対策を講じて高速走行試験では最高時速345キロを記録したが、営業運転は困難だった。

 また、「400系」といえば、それまでの新幹線とはイメージの異なるシルバーの外観が印象深いが、実は東北・上越新幹線の初代車両「200系」がアルミ製車体なのに対して、「400系」は「0系」などと同じ鋼鉄製だった。

 山形新幹線の成功を受けてJR東日本は秋田新幹線の整備に着手した。東京~山形間が約342キロなのに対し、東京~秋田間は約623キロと1.7倍だ。航空機への対抗上4時間を切る必要があり、東北新幹線は最高速度を時速275キロに向上した。秋田新幹線用車両はこれに対応する必要があった。

 ここで登場するのが「E3系」だ。「400系」で確立した直通用設備に最新構造のアルミ製車体、重量対出力比が2.5倍になった小型高出力交流電動機を搭載。東京~秋田間は最大48分短縮し、最速3時間49分となり、航空機とのシェアを五分に持ち込んだ。

「E3系」が再び走り出す
今秋からの新たな役割

 冒頭に記したように、東北新幹線の時速320キロ化に対応した「E6系」の投入で「E3系」は秋田新幹線から引退するが、うち2編成は足湯の付いたリゾート列車「とれいゆつばさ(2014~2022年)」と、世界最速の芸術鑑賞をうたった「現美新幹線(2016~2020年)」に改造されるという数奇な運命を歩んだ。

 小さな体に機能を詰め込んだ万能選手の「E3系」は、電気・軌道総合検測車「E926系」、愛称「East-i」のベース車両にもなった。山形・秋田新幹線、東北・上越・北陸新幹線の全区間で検測を行っているが、北陸新幹線の碓氷峠は最大30パーミルの勾配区間があり、軽井沢以西はほとんどが電源周波数60キロヘルツであることから、「E3系」に機能を追加して対応している。

「East-i」はJR北海道の北海道新幹線、北陸新幹線のJR西日本区間の検測も受託しており、東海道・山陽・九州新幹線系統以外の全ての路線を走行した稀有な経歴を持つ車両である。

 山形新幹線からの引退後、唯一「E3系」の血を引く車両となる「East-i」だが、2029年度の引退が10月7日に発表された。新型の「E927系」は次期秋田新幹線用車両をベースに、最高速度時速320キロ運転が可能な車両となる。