医薬品、IT、自動車など国際的な競争力に直結する基幹産業はすべて軍事転用に深くかかわっている。医薬品は傷病者の治療、ITは機密情報の通信、自動車はモビリティ(移動手段)と、軍事に応用できる範囲が広いものばかりだ。ドローンや自動運転など注目を浴びる新技術も軍事に有用そうである。
なぜアメリカではイノベーションが活発なのに日本はダメなんですかという問いがよく浮上する。軍事予算の有無じゃないですかと答えることはできる。アメリカには軍事予算から潤沢にお金が出る構造があって、日本にはないですよね、というわけだ。
言うまでもなく、だから日本でも軍事研究を……という意味ではないことは断言しておく。ただ、世界的なIT企業が生まれて、イノベーションを生んで、たくさんの雇用やお金を生んで…というサイクルは絶対的存在としての軍事が支えてきた構造である。
不確実なイノベーション投資に
戦争という神話が必要だった
言い方を変えればアメリカでは戦争が「神話」として機能してきたわけである。イノベーション投資は、事前には成功のエビデンスが見つかりづらく、確証がないことのほうが多い。イノベーションが不確実な未来において生まれる新しい価値である限り、事前の予見可能性は低いに決まっているのだ。
賢しらな方々が、それ感想ですよね?エビデンスありますか?とさえ言っておけば、イノベーションの種は簡単に潰せてしまう。
だから神話が必要になる。「われわれの国は偉大である。なぜなら戦争に勝ってきたからだ。これからもそうあるために軍事にお金を使うべきなのだ」と有無を言わせず投資を正当化させる構造があったからこそアメリカは強かったわけである。
不確実な未来に対して確証のない投資をしようとするとき、神話が必要なのだ。これは多くの社会に共通する一般的な構造である。
ところが神話は常に機能し続けるわけでもない。アメリカではベトナム戦争のころに構造がかなり揺らいだ。







