ワーゲンバスは時代を超えて
輝きを放つ存在

 試乗車はロングホイールベース仕様。ボディサイズは4965×1985×1925mm、車重は2720kgに達する。いざドライブしても大きさと重さを感じるが、BEVの利点でイメージよりも重心が低く、トレッドも広いので安定している。箱型ミニバンにありがちな上屋のグラつきはあまり気にならない。これには定評あるVWが手がけたシャシー性能の高さも効いているに違いない。

 モータースペックは286ps/560Nm。静かで滑らかで余力ある走りはBEVなればこそ。アクセルを踏み込むとしずしずと力強く加速して、思ったとおりに動いてくれる。大きくて重くてもネガな部分を意識させられる場面はない。

 見て楽しく、乗ってさらに楽しいのもID.Buzzのいいところ。外観とコーディネートされたインテリアはポップな雰囲気で、明るく健康的で居心地がいい。ディスプレイ類がいまどきのクルマとしては意外と小ぶりなのも、このイメージをできるだけ崩さないための配慮のように感じる。2列目の側面には、クラシカルなスライディングウインドウが設けられているのも魅力だ。このクルマにとって、ウィンドウは特別な意味がある。

 車内は使い方にあわせて自在にアレンジでき、ボードを駆使して後席部分をフルフラットにしたり、3列目を必要に応じて取り外すこともできる。LWBの荷室積載量は最大で2469L。ここまで広いスペースを確保したクルマはそうそうない。

 ID.Buzzは独自の個性を発散する愛すべき存在。代役を務められるクルマなど他にない。実車をまだ見たことのない人は、まずは見る機会を作ってほしい。百聞は一見に如かず。このデザインがいかに傑作かを実感するはずだ。そして、もし可能ならぜひ試乗してみてほしい。電動ミニバンがいかにいいクルマなのか理解していただけるだろう。

 初めてプロトタイプを目にしてから8年あまり。待ちに待ったが、よくぞ日本にやってきてくれた。これから見かける機会が増えていくのが楽しみだ。ワーゲンバスは時代を超えて輝きを放つ存在である。ID.Buzzは新たなサクセスストーリーを刻むに違いない。

(CAR and DRIVER編集部 報告/岡本幸一郎 写真/横田康志朗)

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