Photo by Yoshihisa Wada
海運業界にとって2025年は、トランプ米大統領の通商政策に翻弄されっ放しの一年だった。10月の米中首脳会談で、米中貿易戦争は一時“停戦”となったものの、地政学リスクにさらされている状況は依然として続いている。特集『総予測2026』の本稿では、日本船主協会の長澤仁志会長に「決して楽観はできない」理由と、脱炭素戦略の後退への懸念について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
トランプ関税に翻弄された海運業界
コンテナ船運賃低下でも「心配は多くない」
――2025年は海運業界にとってどのような一年でしたか。
世界中の物の流れが極めて通常ではない状況に陥った一年でした。最大の要因は米国トランプ政権による関税政策です。4月に発表があって以来、米中間で一時は100%を超える関税をかけ合う状況に発展し、国際物流にもすさまじい影響が出ました。
海運の場合は関税だけではなく、米通商代表部(USTR)が中国船や自動車船から入港料を徴収する話もありました。実際10月14日に発効しましたが、月末の米中首脳会談で取り下げられて、1年間猶予されることになりました。約1カ月間は課徴されましたが、それ以降については通常通りに戻っています。
――直近の26年3月期第2四半期決算について、日本郵船と商船三井、川崎汽船の邦船3社は減収減益になりました。
運賃下落によるコンテナ船事業の減収が大きく影響しています。その背景には米中の報復関税に翻弄されたことだけでなく、コンテナ船の運賃が暴騰したコロナ禍に各社が船を大量発注していたこともあります。発注していた船が出てくるタイミングが24年、25年でした。24年も運賃の低下が危ぶまれていましたが、中東情勢の悪化により紅海を航行できなくなって需給が引き締まったため、結果として運賃は下がりませんでした。今年は紅海の状況が変わっていない中、新造船がより供給されたので運賃が下落し、コンテナ船事業の実績が落ち込んでいます。
もっともコンテナ船以外の事業は、それほど落ち込んではいません。逆に言えば、コンテナ船事業はコロナ禍のときが出来過ぎでした。とはいえ、今は運賃が下がっているため少し実力以下になっています。
コンテナ船業界では再編による寡占化が進んできており、企業間のアライアンスの枠組みも強化されていますので、以前よりも船の供給量を調整しやすくなっています。そのため、さほど将来的な心配はしていません。
――紅海が通れるようになれば、さらに運賃が低下していく可能性があります。
邦船大手3社の合弁コンテナ船会社であるオーシャンネットワークエクスプレスも、さすがに今動かしている船を処分するでしょうし、船舶の新陳代謝が当然起きます。コロナ禍のときは運賃が暴騰したので、なかなか古い船を処分するモチベーションが働きませんでしたが、今の状況が続くと船を処分するはずなので、バランスは整っていくでしょう。
本来は、温室効果ガス(GHG)削減に関する国際条約改正がそれを後押しするはずでした。改正案では、GHG排出量が基準を上回る船には課徴金を、基準を達成した船には還付金が支払われるスキームだったからです。
ところが米国の強い反発を受けて、25年10月の臨時海洋環境保護委員会(MEPC)の採択が1年見送りになりました。GHGを多く出す船の退出を促す国際的な枠組みとして極めて健全な案だったのですが、それが延期になったことで、各社が船を処分しづらくなった側面もあります。
貿易戦争、地政学リスクによって大きく翻弄された海運業界。海運バブルを支えたコンテナ船の運賃低下が危ぶまれるだけでなく、その他の事業にも不安は募る。関税の影響が色濃く残る自動車船事業など、不確定な要素が多いからだ。さらに、米国は環境規制に強い反発を示しており、海運業界の脱炭素化も後退する恐れがある。次ページでは、トランプ関税下での自動車船事業の見通しに加え、「脱・脱炭素」への懸念について長澤会長が語る。







