だが、妻は長野に来ても「寒いし、疲れる」と、さっさと帰ってしまう。
「朝、コーヒーを一緒に飲む相手がいない。テレビを見てしゃべる相手がいないことがこんなにつらいと思わなかった」
広い家に1人でポツンといても油絵を描く気力が全く起きなかった。約1年で「卒婚」をギブアップし、東京に舞い戻った。
戻ってから中野区で隣接する3軒の一軒家を購入した。清水さん夫妻と義母、2人の息子たち夫妻や孫がそれぞれ、暮らしている。
離れたことで痛感した
パートナーのありがたさ
「離れてみるとパートナーのありがたさが身にしみて分かります。夫婦が一緒に築いてきた長い歴史を簡単に捨てちゃあ、もったいないと俺は思います」
清水さんの妻は数年前、体調を崩して手術を受けた。これまでさんざん苦労をかけたので、妻とは飽きるほど一緒にいたいと思っている。
清水さんがクルーズ船で世界を回る旅に1年ほど一緒に出かけないかと提案したら、「そんな長旅は嫌」と妻に断られた。まず、韓国への3日間の旅からはじめ、次はハワイまでと旅の期間を長くしたいという。
清水さんの周囲でも、よく熟年離婚を見聞きするようになったという。
『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞取材班、朝日新聞出版)
最近も、長年連れ添った妻から「性格の不一致」を理由に離婚を求められたという50代の知人男性から相談された。
妻が昔のことまで蒸し返し、離婚を求めたのでののしり合いになり、そこまで言われるならと知人は離婚届に判子をついた。
その後は意外な展開に。
知人は、友人男性が犬の散歩をしているのを見かけた。よく見ると、それは別れた妻が飼っていた犬だった。妻が自分の友人と不倫関係にあったことを偶然知ってしまったという。
「どうしようもない場合もあるけど、修復が可能なら『卒婚』して踏みとどまってみることをおすすめします」と清水さんは語る。






