読売巨人軍は社長の定年が66歳、私のポストである専務は65歳だそうである。それが社長に就けば68歳まで延びることがあると言う。後で桃井に聞いたら、それは読売本社の副社長クラスの定年らしい。

――そうか、ポストで釣ろうというのか。

 げんなりしていると、「君と原は並び立たないんだ」と言う。

「えっ」。声が出た。

「原を切るとだな、いやがらせをする。菅野をくれない」

 菅野とは、原の甥で東海大学の菅野智之のことである。2011年ドラフトのナンバーワン投手と言われたが、10月27日のドラフト会議で私が抽選くじを引いて外してしまった。菅野は日本ハムの指名を拒否し、浪人して巨人入りを目指すという。

 渡邉の論理は、菅野獲得のために監督を続投させ、ここはGMの座を後任に譲らせようというのだった。なんという理屈だろう。

「いま原をコントロールするピッチングコーチがいない。交代をことごとく間違えている。采配で負けた試合は極めて多い。江川をヘッドコーチにする。原も彼を尊敬している。江川は日テレから(解説者報酬などで)1億円もらっていたのが、(日テレの経費削減などで)4900万円くらいになるから、巨人に来た方が多いと思う。原を江川でコントロールする。そして菅野を何とか獲る」

 そうも言って、黙って聞いているソファの私を睨んだ。

「君は当面、球団代表として、杉内(俊哉)らを獲ってくれ。オーナーを読売グループ社長の白石(興二郎)にして、君がその下にいて勉強させる。オーナー会議を抑えることは、桃井じゃできないんだ。オーナーと社長を切り離す。君はオーナー代行で総務本部長、コンプライアンス担当もやる。1、2年頑張ってもらえば、桃井社長は来年、定年だ。それを延ばしても、君が巨人軍社長だ」

渡邉にとっては人事も江川も
集客のための手段にすぎない

「しかし……」。私は首を縦に振らなかった。すると、今度は若いころの話を持ち出した。