私が社長室に入ると、桃井は肩を落とし、申し渡された話を打ち明けた。

「江川をヘッド(コーチ)に入れたいと……。これ前、原監督が言っていたんだっけ」

 いつも理路整然と語る彼にしては珍しく奥歯に物が挟まったような物言いで、話は行きつ戻りつした。

「全体が変わったんだという話なんだけどさ」「今年の成果を見ろと。結果が出なかった。来年も同じようにできないんだって」「CSで負けたからではないんですよね。2年連続で日本シリーズに出られなかったってことなんですよ。それでかぁっとなったから、あれなんだよね」

 20分ほど話してはっきりしたことの1つは、日本テレビ解説者である江川卓をヘッドコーチに呼ぶ、ということだった。

「カネの問題とかいろいろあるだろうが、江川が来ると言ったら、岡崎ヘッドコーチを野手総合コーチに持っていく(降格させる)しかない」という。

 もう1つは球団フロントの人事で、まず桃井社長のオーナー職兼務を外す。清武は専務取締役球団代表オーナー代行のままだが、総務本部長・コンプライアンス担当とし、清武が務めていたGM・編成本部長は常務取締役総務本部長が引き継ぐが、今季の補強は編成権限のなくなった清武が球団代表としてそのままやる。

――ひどい。今頃になってなぜ岡崎を外し、江川を呼ぼうとするのか。

 と私は思った。岡崎は桃井の後押しもあってヤンキースにコーチ留学してメジャー流の指導を学んだ後、巨人の2軍でコーチや監督も務め、選手育成を牽引してきた。

 オーナーたる桃井や私の知らないところで、その岡崎を降格する人事を画策するとは誰の発案なのだろうか。腕一本で生きるコーチを手駒だと思っているのか。

 だが、一度は「やっていられない」と怒っていた桃井は心萎えた様子で、自らのオーナー職剥奪についても、「本当は俺がなるべきじゃないですよ」と漏らす。すっかり渡邉の言を受け入れて、私の説得役に回っていた。

 一緒に辞めるという話もどこかに飛んでいたが、ここで追及してもしかたない。「私は受けられませんから、少し考えさせて下さい」と退出した。