「親の学歴=自分の限界」ではない

びーやま:結局は「自分が学ばないための言い訳」として「親」を持ち出しているだけなのかもしれませんね。中原先生は、親が高卒かどうかは関係ないと思われますか?

中原:関係ないと思います。私の両親も高卒で、ふつうに地元の会社に勤めていました。親で人生がすべて決まるなら、私は、いまここに、いない。

 両親は、私を普通に育ててくれました。N=1(私だけのデータ)で恐縮ですが、私は「親の学歴=自分の限界」とは思いません。もちろん、全体を通してみれば、親の学歴が子どもの学歴と相関することは、社会科学でわかっています。ただ、それだけのことで「自分の人生」を放棄しなくてもいい。

びーやま:なるほど。僕もよく言っているのが、日本に生まれた時点で「人生のガチャ」としてはかなりの「当たり」を引いているということです。世界的に見れば、すごく恵まれていますよね。

中原:たしかに。水洗トイレがある。蛇口をひねれば水が出る。街を普通に歩ける――その環境だけでもありがたいことです。私たちはこの「当たりのガチャ」を引いていますよね。

学ぶ親の背中を見せる。子どもの芽を摘まない

びーやま:一方で、中原先生の『学びをやめない生き方入門』では「上司の学習態度が部下に伝染する」という話もありましたよね。それと同じで、親の学びに対する姿勢が子どもに伝わることもあるのではと思うのですが、その点はいかがでしょうか?

図表

中原:それはたしかにありますね。先ほども申し上げましたが、「親の学歴が子どもに伝わってしまう傾向(学歴の再生産)」は、否定できない事実です。ただし、それは100%ではありません。それだけをもって「自分の人生」を放棄してしまうのはもったいない。

 私は、社会人大学院のゼミ生たちに「修了式の日にぜひお子さんを連れてきてください」と伝えているんですよ。学位を受け取る姿を見せれば、「お父さん/お母さんも学んでいるんだ…!!」と子どもの心に残る。学んでいる親の背中を見せることは大事です。

びーやま:そしてもう一つ大事なのは、親が子どもの学びを邪魔しないことですね。たとえば子どもが「東大に行きたい」と言ったときに、「あんたが行けるわけないでしょ」とか「地元の大学で十分」と言ってしまう親がいます。

中原:いわゆる「親ブロック」ですね。そうやって子どもの芽を摘んでしまっているケースは多いと思います。

 子どもの中に「学びたい」という気持ちが芽生えたら、ぜひ挑戦させてあげてほしいです。そこでブレーキをかけずに、背中を押してあげるのは親の役目だと思います。

中原淳氏(左)・びーやま氏(右)中原淳氏(左)・びーやま氏(右)
※1:本記事ではびーやま氏、もしくは編集部宛に届いた悩みを扱っております。
中原淳
立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。1998年東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科で学び、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発・リーダーシップ開発について研究している。著書に『M&A後の組織・職場づくり入門』『組織開発の探究』(共著、HRアワード2019書籍部門・最優秀賞受賞)、『研修開発入門』(以上、ダイヤモンド社)、『職場学習論』『経営学習論』(以上、東京大学出版会)ほか多数。

びーやま
教育痛快バラエティ番組・YouTube『wakatte.TV』のツッコミ担当。早稲田大学教育学部卒。高校時代の偏差値は37だったが、1年間の浪人を経て早稲田大学に入学。大学時代は起業・自主退学・復学など、さまざまな経験をしたのち、大学受験のすばらしさに気づき現在に至る。甘いルックスと鋭いツッコミ(たまにポンコツ)で視聴者の心を掴んでいる。決め台詞は学歴モンスターの相方・高田ふーみんを制止する「ヤメロオマエ」。