写真はイメージです Photo:PIXTA
「カスタマーハラスメント」という言葉が世の中に定着して久しい。理不尽な要求や攻撃的な苦情に対し、企業はどのように対応すればよいのか。事例をもとに、苦情対応のポイントと企業の取り組みを紹介する。お菓子メーカーに寄せられた「レシートも現物もないが返金せよ」という要求――そのとき現場はどう動いたのか。※本稿は、日本能率協会コンサルティング編著『実践カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』(経団連出版)の一部を抜粋・編集したものです。
お菓子を6箱買ったが
レシートなし、1箱現物のみ
お客さま相談室の電話が鳴った。担当の山田優子が受話器を取る。「ハナマル製菓お客さま相談室でございます。いつも当社製品をご愛顧いただきありがとうございます。どのようなご用件でしょうか」。山田は明るく応対した。
「あのね、プレミアムクリスピーのことで連絡したんだけど」。電話の向こうの蒼井一郎の声は落ち着いていた。「昨日、6箱買ったんですよ。1箱は自分用で、5箱は取引先へのお土産にしたんです」。
「はい、ありがとうございます」。山田は丁寧に応じた。
「ところが、自分用の箱を開けて食べてみたら、なんか味がおかしいんですよ。よく見ると、個包装が破れているようなものがあった。すでに取引先に配った5箱のことが心配になって、あわてて連絡して『食べないでください』って伝えたんです」。蒼井の声にはまだ怒りはなかった。
「大変申し訳ございません。ご不快な思いをさせてしまい、誠に恐縮です」。山田は謝罪した。「お手数ですが、破れていたという商品の状態を詳しく教えていただけますか?」。
「いや、破れていた包装は捨ててしまったよ。ゴミだと思ってね。レシートも捨てちゃった。自宅用の1箱は残っているけどね」。蒼井は説明した。







