「各社それぞれの品質管理の方針がございますので一概には申し上げられませんが、当社では商品の安全性を最優先に考えております。そのため、問題の原因を特定するために現物確認が必要なのです」。山田は毅然と説明した。

「SNSに投稿してやる」
脅してきたカスタマー

「もういい!私は恥をかいたんだぞ!それに対する誠意はどうなんだ?」。蒼井は怒りを隠さなかった。

「お客さまのお気持ちは理解できます。ですが当社としましては、品質上の問題があったことを確認できない状況では1箱分以上の対応は難しいことをご理解いただきたいと思います。もし今後、同様の問題が発生した場合には、商品をそのまま保管していただけますとより適切な対応ができます」

「こんな対応なら、もう二度と買わないぞ!SNSにも投稿してやる!」。蒼井は脅すように言った。

「お客さまのご意見は真摯に受け止めさせていただきます。当社の対応にご不満があることは申し訳なく思いますが、品質管理の観点から、このような対応となることをご理解いただければ幸いです」。山田は冷静さを保ちながら答えた。

 蒼井はしばらく黙っていたが「わかった。1箱分だけでも返してくれるんだな?」と尋ねた。

「はい、お手元にある1箱をお送りいただければ、返金の手続きをさせていただきます」

「……わかった。住所を言うから、返送用の封筒を送ってくれ」。蒼井はしぶしぶ言った。

「かしこまりました。ご住所をお伺いしてもよろしいでしょうか」。山田は丁寧に応じた。

 蒼井の住所を聞き取り、必要事項を確認した後、山田は「お送りした封筒に商品を入れてご返送いただければ、確認次第返金の手続きを進めさせていただきます。今回はご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」と締めくくった。

「わかった。では、そうする」。蒼井は不満そうな声で言ったが、それ以上の要求はしなかった。

 電話を切った後、高橋室長が山田のところに来た。

「山田さん、素晴らしい対応でした」。高橋はほほ笑みながら言った。

「ありがとうございます。でも、お客さまは不満そうでしたね……」。山田は心配そうに言った。

「それでも、会社のポリシーを守りながら、丁寧に説明できていました。一貫した対応が大切なんです」。高橋は肯定的に答えた。