山田は一瞬考え、はっきりとした声で答えた。「お客さま、状況を理解いたしました。商品に関してご心配をおかけして申し訳ございません。ただ、品質上の問題を調査するためには、実際に破れていた商品を確認する必要がございます」。

「でも、もう捨てちゃったって言ってるだろ!前回は対応してくれたじゃないか」。蒼井の声がやや強くなった。

「お客さま、お気持ちはよく理解できます。ただ、品質管理は当社の最優先事項です。問題の原因を特定するためには、実際に商品を確認させていただく必要があります。お手元にある1箱については、商品をお送りいただければ、返金の対応をさせていただきます」。山田は冷静に説明した。

「上司を出せ!」にも
毅然とした対応

「いや、だから、前回はレシートなしでも対応してくれたんだよ!」。蒼井の声は大きくなった。

「お客さま、個々のケースにより状況が異なることがございます。今回の場合、破れていたという個包装が確認できない状況では、品質上の問題があったかどうか判断することが難しいのです。そのため当社の規定では、そのような場合、現物確認を必要としております」。山田は毅然とした態度で説明した。

「上司を出せ!あなたじゃ話にならない!」。蒼井は怒りをあらわにした。

 山田は一瞬、鈴木課長と高橋室長を見たが、鈴木と高橋はほほ笑みながら静かにうなずくだけであった。山田はそれが「任せるよ」というメッセージだと受け取り、深呼吸をして続けた。

「お客さま、私が責任をもって対応させていただきます。繰り返しになりますが、お手元にある1箱については、商品をお送りいただければ返金の対応をさせていただきます。ただ、すでに配られた5箱については、購入の証明や商品の状態を確認することができないため、返金の対応は難しいことをご理解いただきたいと思います」

「なんだと?私がうそをついているというのか?」。蒼井は声を荒らげた。

「そのようなことは一切申し上げておりません。当社は常にお客さまの声を大切にしております。ただ、品質管理上の問題を正確に把握し、再発防止に努めるためには、一定の手続きが必要なのです」。山田は冷静に答えた。

「他社ではこんな対応はしないぞ!」。蒼井は言い返した。