リーダーはどのように学び、成長するのか。マクドナルドCEOやゴールドマン・サックス元会長などの経営者、スポーツ界のトップ選手、ウォーレン・バフェットに代表される専門分野のエキスパートなど世界の成功者たちの知恵をまとめた実践の書が『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』だ。
本書の監訳者であり、一橋大学特任教授、経営学者の楠木建氏は「世界のリーダーの叡智と経験に満ちた、いまだからこそ読むべき“座右の書”だ」と述べている。本記事では、楠木氏に良いリーダーの条件について聞いた。(取材・構成/小川晶子)

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良いリーダーの条件

――『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』には世界のトップリーダーたちが出てきていますが、楠木さんが考える「良いリーダー」像を教えてください。

楠木建氏(以下、楠木):この本に関連して、僕は2点挙げたいと思います。

一つは、学び続けた結果として「自分の中に価値基準を持っている」ということ
自分の言葉で練り上げた価値の基準を持つことが、学びの究極の目的だと思っています。
それに比べれば、これまで知らなかった知識を得るというのは些細なことです。
自分の中に価値基準を持たなければどうなるか。
外在的な価値判断に即して生きることになります

betterではなくdifferent

楠木:僕は「競争戦略」を専門としているのですが、競争戦略とは一言で言えば「違いがあるから選ばれる」ということです。競合他社との違いです。
これは、他社よりいいという話ではありません。
他社よりbetterになることを目指すのは戦略にならないんですよ。
differentなポジションを取るのが戦略です。

たとえばユニクロは「ライフウェア」というコンセプトを持って、ファストファッションブランドのZARAに対してdifferentなポジションを取っています。
ユニクロとZARA、どちらがより優れているということではないですよね。これが戦略です。

――戦略を立てるには、自分の中に価値基準を持たなければならないのですね。

楠木:どっちがいいんだろうと考えた瞬間にもうアウトなんですよ
differentでなくbetterを選ぼうとしていますから。

いまはAIに聞けば答えが返ってくる時代ですが、たとえばAIに質問して3つのオプションが出てきたとします。
A,B,Cの3つがあって、そのうちどれを選ぶのが良いだろう。
このとき、「どれが一番いいの?」と聞いたら、それは戦略ではありません。
正解があるのであれば、みんなそれを選びます。
結局みんな同じになって、違いはなくなってしまいます。

ということは、「良いことA」と「良いことB」のどっちを選ぶのか、というのが本当の意思決定です。
リーダーは意思決定に責任を負っていますが、自分の中に固有の価値判断の基準がなければこの判断ができないのです。

濃い学びは直接体験から得られる

楠木:もう一つは、「現場から学んでいる」ということです。
本書の著者であるデヴィッド・ノヴァク氏はこの点を強調しています。

彼はペプシの工場の中で最も業績が悪く、1ケースあたりの収益が最も低いという工場を訪れ、現場のリーダーたちの話を聞いて経営課題を学ぼうとしました。
批判的思考を高めるための効果的な方法は、できる限り一次情報を得ることです。
自分で直接情報に触れなければ、間接的な情報にまどわされてしまうでしょう。
昔から「現場・現物・現実」と言いますが、直接経験によって学ぼうとするのが大切です。
それが本書で言っているリーダー像「アクティブ・ラーナー(能動的な学習者)」の非常に重要な行動特性だと思います。

――「学ぶ」というと、テキストで学習したりセミナーを受講したりということが思い浮かびがちですが、現場で学ぶことが重要なんですね。

楠木:学びの濃さが全然違いますからね。
「ストーブに近づきすぎると危ないよ」と言われるのと、実際にストーブに触って火傷をしたのとでは、得られる教訓の強さが違うでしょう?
今後いかに技術が進歩しようとも、直接体験による学びにかなうものは出てこないと思います。

(※この記事は『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』を元にした書き下ろしです。)