「受験=学力勝負」とは限らない!筑駒も採用している“意外な選抜方法”『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第98回は、「くじ引き」を用いた選抜について考える。

イグノーベル賞を取った「くじ引き」の研究

 龍山高校の改革を主張する東大合格請負人・桜木建二は、新たに付属中学校の新設を主張する。その上で、中学入試を「くじ引き」で行うと提案したのだ。

 入試でくじ引きとはそんなバカな!と思う人もいるかもしれない。だが、入試の一部に抽選を取り入れる学校は存在する。東京学芸大学附属竹早小学校やお茶の水女子大学附属小学校などの国立小学校では、第1次選抜と第3次選抜を抽選で実施する、という形式をとっている。

 中学受験でも、最難関の1つである筑波大学附属駒場中学校の第1次選抜は抽選だ。もっとも、この抽選は出願人数が定員の8倍を超えた時に行われるもので、近年は実施されていない。

 実力ではなく、運で希望をかなえようという考え方は入試以外にもある。組織論や経営学の分野において仮想的に議論されている「くじ引きで選んだ人を昇進させる」というアイデアだ。

 なんと、優秀な人を抽出して昇進させるよりも、一定の確率でランダムに昇進させる方が、組織は効率よく動くのだという。この研究を行ったアレッサンドロ・プルチーノ氏らのチームは、2010年に「人々を笑わせ考えさせた研究」に贈られるイグノーベル賞を受賞した。

 プルチーノ氏らは、仮想的な階層組織をコンピュータ上に構築し、構成員に「能力」と「年齢」を設定した上で、昇進の仕組みをシミュレーションした。

(A)最も能力の高い人物を昇進させる「メリトクラシー(成果主義)」方法と、(B)候補者の中から完全にランダムで昇進者を選ぶ「ランダム昇進」方法などだ。その結果、意外にも(B)の方が長期的に組織全体の効率を高めることが示されたのである。

でも「くじ引き万能説」にも限界が…

漫画ドラゴン桜2 13巻P49『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 この研究の背景には、1960年代に提唱された「ピーターの法則」がある。これは、「組織において、人は現在の階級での有能さを基準として昇進し、やがて自らの能力では対応できない階級=無能レベルに達して昇進が止まる」という理論である。

 プルチーノ氏らは、これを数理モデルで再現し、昇進時に「新しい職位での能力は、以前の職位での能力と無相関である」と仮定した。その結果、「優秀な人を選ぶほど、ピーターの法則が強く働いて効率が低下する」という逆説が浮かび上がったのだ。

 ランダムに昇進させることで、この欠陥を回避できる可能性がある。無作為に昇進者を選ぶことで、「たまたま不適応職に昇進してしまうリスク」を分散でき、組織の平均的な生産性を維持できる。

 ただし、このモデルには限界がある。

 第一に、これはあくまでシミュレーション上の結果であり、実際の人間組織に適用した実証研究ではない。さらに、能力の定義は単純化され、モチベーションや人間関係などは考慮されていない。

「どれだけ努力しても、昇進が確率的に決まる」となれば、努力や成果への意欲そのものが損なわれる可能性もある。

 桜木が提案した「入試くじ引き」も、プルチーノ氏らの「昇進ランダム化」も、実力主義に対する興味深いアンチテーゼである。しかし、どちらも「公平さ」と「納得感」をどう確保するかという課題を抱えており、現実社会で導入されるには、まだ議論が必要だろう。

漫画ドラゴン桜2 13巻P50『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 13巻P51『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク