既存の業務にデザインを組み込めば成果が上がる
――「セミパブリック」の領域で、特にデザインが有効だということでしょうか。
金 うーん、「セミパブリックだから」という意識はあまりないですね。結局のところ、誰が課題を持っているのかを探って、そこから市場の規模感を想定し、ビジネスモデルやマネタイズモデルを組み立てていく——そのプロセスは、どんなビジネスでも同じじゃないでしょうか。
土岐 単年度の予算取りが必要だったり、国、自治体、現場組織、ユーザー……と、関係者が何層にも重なったりするのは行政の特徴かもしれませんが、大企業だってそう変わりませんよね。どんな案件でも、環境の中に飛び込んで、当事者の会話や考えにプロトコルを合わせにいく、というやり方は同じです。社内にデザインを広げる場合も同じですね。
TETSUO TOKIKOEL代表。ネットワーク、クラウド、アプリケーション、IoTのサービス企画・開発・運用から会社全体の人材育成まで幅広く担当し、KOELでは代表としてデザイン案件支援、組織開発・組織デザインを統括。
――社内にデザインを広げるというのは、具体的にはどんな活動ですか。
土岐 もともとKOELの役割は二つあって、一つは先ほどお伝えしたような「デザインの事業への浸透」。もう一つが「デザイン人材の育成」です。開発側の社員だけじゃなく、営業やオペレーションのチームも含めて、NTTドコモビジネス約1万人の社員にデザインアプローチをインストールしていこうと取り組んでいます。各事業組織の課題に合わせてカスタマイズした研修の実施はずっと続けていて、かなり社内に浸透してきています。
――余分な仕事が増える、みたいな反発はありませんか。
金 そうなると本末転倒なので、「既存の業務にデザインを組み込めば成果が上がる」という事実を大事にしています。企画を立てるときはユーザーヒアリングをする、営業用の提案書類にはスペックを並べるのではなく、「何が解決できるか」を訴求する。そういうやり方を「ユーザーニーズ特定研修」みたいなネーミングで展開するのです。実践者が増えると事業部のマニュアルにも組み込まれて、当たり前のものになっていきます。
土岐 やっぱり、実際にやってみた人に共感されていることが大きいですよね。実は、どの事業組織でも、成果を出している人は無意識にデザイン的なことを実践しています。そういう人たちのメソッドを形式知化すると成果が出る。成功事例ができれば組織長も共感してくれて、もう一つやってみようとなる。そうやって成功事例を蓄積していきます。
金 デザインの力を体感したメンバーを起点に、新たなプログラムが次々と生まれています。KOELだけで全社を変えることはできません。だからこそ、研修をきっかけに仲間をつくり、事業組織内にデザインチームが立ち上がるよう、さまざまな形で働き掛けています。そして、生まれたチームには伴走しながら成果を出してもらい、その輪を広げていく。こうして今、KOELを中心にデザインの活動がアメーバのように広がりつつあります。







