技術型組織に「顧客視点」をインストールする
JIJI KIMKOEL・ビジネスデザイナー。九州芸術工科大学卒業。2005年にNTTコミュニケーションズ入社。音楽配信サービス、映像配信サービスなど数多くの新規事業開発に携わる。2011年にKOELの前身となるデザインチームを立ち上げ、UIから経営理念まで幅広く手掛ける。
――お二人はもともとエンジニアだと聞いています。そもそも「全社にデザインを広げていこう」と考えた動機は何だったんでしょうか。
金 一言で言えば、会社を変えたかった。組織変革のために何が必要かを考えた先にデザインがあっただけで、最初から「デザインありき」ではないんです。
土岐 実はKOELには10年近い前史があります。もともと社内にデザイン部門はなかったんですが、11年に、金が社内ベンチャー的に「UXデザインスタジオ」を立ち上げました。そして、2人のチームでプロダクトのユーザビリティー評価やUX改善活動を草の根的に始めたんです。UXを良くするためには、組織横断の取り組みが必要で、実際に成果も出てきました。その活動が当時の社長に伝わり、16年に「デザインで組織のサイロ化を突き崩そう」という号令が掛かって全社的な活動になったと聞いています。
――もともと組織変革の取り組みとして始めた、と。
金 そうですね。個人的な動機を言えば、「この会社は、本当に新規事業を生み出せるのか?」という疑念が原点です。私は05年にエンジニアとして入社して、何度も新規事業プロジェクトに関わってきましたが、どれも成功しませんでした。その根本原因は、ユーザーの視点に立つ意識や仕組みが十分に根付いていないことが、根本的な課題なのではないかと感じるようになったんです。
技術の専門家はたくさんいるのに、生活者をより能動的に見る機能がない。「通話品質の向上」とかは得意なのに、顧客のニーズに刺さるサービスが生まれない。そんな状況の中で、私はデザインに出合いました。組織文化を変えるために、プロダクト開発ではアジャイル、事業開発ではリーンスタートアップ、さらに組織開発のアプローチなど、必要な概念を次々と学びました。そして、それらに通じる共通の考え方として、デザインにフォーカスして取り組むようになったのです。
土岐 NTTは長距離電話などのインフラを原点に事業を広げてきた会社です。人口増加局面でのインフラは「提供すれば使われる」が前提でした。ところが、人口減少・高齢化局面では、需要にうまくミートするものでなければ広がりません。クラウド、IoT、アプリケーション……と、サービスがユーザーに近づけば近づくほど、今までのやり方が通用しなくなる。一人一人の人間を見て問題の構造を把握し、小さく始めて、大きく広げる。スタートアップでは当たり前のやり方を、NTTのような大きな組織でもできるようにならなくてはいけないと。
――それが20年に、KOELに発展したんですね。
金 デザインの構成要素は「共感」「構想」「試行」「感性」の四つだと思います。ユーザーに「共感」し、そこから多様なステークホルダーに届くビジョンを「構想」し、プロトタイプを作って「試行」し、「感性」で人の心に訴え掛けていく――。KOEL以前は、主に「共感」と「試行」に力点を置いていましたが、だんだん「構想」や「感性」の部分でも質の高いアウトプットが必要になってきた。そこで、外部からストラテジックデザインやコミュニケーションデザインのプロフェッショナルを採用してデザインの専門家集団として進化させようと考えたんです。こうして20年に生まれたのがKOELです。
土岐 組織としての正式名称は「イノベーションセンターデザイン部門」ですが、外部からデザインに熱意があり、高い専門性を持ったデザイン人材を採用するには「ブランド」があった方がいいと考え、「KOEL」と名付けました。名前を付けたことで別組織だと誤解されることも多くて、社内からも「御社」って呼ばれたり(笑)。ただ、こういうちょっとした「壁」があることが、ある種の緊張感として良い方向に作用しているように思います。







