抽象と具体を往復しながら、ビジョンを描く

――NTTコミュニケーションズ(旧社名時代)のビジョン策定に関わっていたとのことですが、経営層とはどのようにコミュニケーションしていますか。

土岐 事あるごとに場をつくって、粘り強く私たちの活動に意味があることを伝えています。経営幹部も定期的に入れ替わるので、そのたびにデザインがどう活用できるかを一緒に考えるようにしています。

 経営層に対しても、相手のプロトコルにきっちり合わせるのが大事です。経営幹部は忙しいので、短時間で効用を伝えないといけない。幹部会議の内容は一通り把握し、経営幹部の課題感に合わせた言葉を使って、最も効果が伝わる情報を選びます。定量情報が有効なら数字、定性情報が有効ならユーザーの声ですね。

――ビジョン策定においては、デザインの力はどのように発揮されますか。

土岐 世の中の変化に対して自分たちがどう変わらなくちゃいけないかを言語化するという意味では従来のやり方と変わりません。デザインの力が発揮されるのは、モヤモヤした未来像から、そのときの生活、家族像、課題などを具体的に描けるという点です。その具体化された未来社会で自分たちがどんなサービスを提供していたいかを言語化する。今とのギャップがあるなら、それがどうすれば埋まるかを考える。すると、目の前の仕事に長期目線で取り組めるようになります。

 KOELのビジョンとしては「人と企業に愛される社会インフラをつくる」です。私たちも「愛される社会インフラがある世界で、誰もが創造性を発揮しながら、可能性を広げている」という未来の情景を常にイメージしながら日々の仕事に取り組んでいます。

土岐 ビジョンを形にするために、「NTTとして何を目指すか」という抽象と、「現場でどんな解決策を見いだすか」という具体を行き来することが大事なんですよね。それはデザイナーだけの特殊能力じゃないし、営業も、プロダクトの開発者もみんなができるようになることを目指しています。

――お話を伺っていると「デザインを拡張する」というより、今までのやり方が通用しないビジネス環境で、新しい開発方法や、意識の持ち方のプロトタイピングをしている、という印象を持ちました。

土岐 確かに、デザインをしている、というより、事業や組織の変革をやっている、という意識の方が強いですね。今、組織としてはNTTドコモビジネス内にありますが、持ち株会社からの相談も増えていますし、最終的にNTTグループ全体にデザインをインストールしていきたいと考えています。そのために最もふさわしい組織の在り方はどのようなものか、これからも探っていきたいと思っています。

社内で「御社」と言われる異端のデザイン組織が、巨大インフラ企業に顧客志向の開発手法をインストールする