ところが、ドイツ人の同僚や上司から想定外の言葉が投げかけられます。「それで、あなたはいったい何をしたの?」こう尋ねられ、Aさんは絶句してしまいました。日本人社員はチームで勝ち取った成果の報告を良かれと思いましたが、ドイツ人社員にはAさん個人の貢献が見えず、「何もしていない」と解釈されたのです。
これは、日本とドイツの文化や価値観の違いなのでしょうか?
ジョブ型とメンバーシップ型の違いは
ホームランか送りバントか
国際マネジメントを専門とする京都先端科学大学のハギリアン・パリッサ教授は、この話の背景には文化の違いというよりも、「雇用システムの違いがある」と分析します。ドイツでは仕事は専門化され、契約書には「ジョブ・ディスクリプション」が明記され、スキルやレベルに応じて個人の責任が明確にされます。評価もこの契約書をベースに行われます。
こうした雇用形態は「ジョブ型雇用」として近年、日本でも導入が進みつつあります。とはいえ、まだ多くは専門分野を問わず採用され、どの部署にでも配属される、仕事の分業が明確でない働き方が一般的でしょう。これを「メンバーシップ型雇用」と言います。
ジョブ型とメンバーシップ型の違いは、野球部に例えられます。メンバーシップ型では、野球部に入った人はどのポジションでも登用される可能性があります。一番大切なのは監督への忠誠心とチームとしての成績です。個人の成績が悪いからといって、すぐに退部にはなりません。送りバントなどの自己犠牲もチーム内で高く評価されます。
一方のジョブ型は、各人が特定のポジションで採用され、自己責任と高い成績が求められます。個人としての鍛錬が必要で、結果の出ない時には責任を取らなければいけません。
「スキルを売る」ドイツ
「会社人生を売る」日本
「ドイツの雇用形態で最も重要な点は、自分のスキルを会社に売っていること」と、ハギリアン教授は指摘します。社員は特定の仕事をするためにのみ雇用されるドイツは「スキルを売る」システムです。







