そして上期はまだ関税発動以前に輸入した在庫の販売があったことで、北米での価格転嫁をせずに済んだ側面がありましたが、下期はいよいよ北米でも一部値上げによる転嫁をせざるをえないとみられています。
さて、ここからは経営努力の話を深掘りしましょう。逆風への経営努力として、経営陣は損益分岐台数を低下させることへ力を入れます。
ここが実はトヨタにとっての過去2年の大きな課題でした。サプライチェーンの余力不足や認証問題への対応などトヨタにとっての「足場固め」への投資が膨らみ、生産が安定したというメリットと引き換えに、直近の2年間で損益分岐台数が大幅に上昇し、10年前の水準に戻ってしまっていました。
トヨタはこの部分でチャレンジを表明しており、販売台数・車種構成の見直しで前期比プラス3200億円、バリューチェーンの向上で1950億円の増益を見込んでいるのです。
冒頭で「日本の自動車業界全体では何が起きるのか?」と申し上げました。シンプルに考えるとアメリカの関税が15%に増えたのですから、日本から輸出するトヨタ車の価格が15%値上がりして車が売れなくなるか、ないしは車のコストが15%上がって利益が出なくなるというのが普通に起きることです。
トヨタが年間の見通しで表明したことは、それを経営努力で抑え込んで関税の決算への影響を▲1兆4500億円に抑え込むということです。
これはある意味でトヨタだから大幅に販売台数を増やし、利益率の高い車に販売構成をシフトし、かつアメリカ以外の地域で利益を確保できた結果です。同じことを同業他社が真似できるのでしょうか。自動車産業全体の下期の見通しはどうなるのでしょうか。
トヨタに限らず、トランプ関税は今年度下期には各メーカーを直撃します。これまで各社が発表してきた関税の影響額を整理してみましょう。
トヨタの翌日に決算発表があった日産は年間の関税の影響見通しを▲2750億円としています。関税が25%だった5月の最大試算で▲4500億円としていましたがそこまでの大きな影響ではないという見通しです。
日産は今年度の営業損失の見通しが前年比で▲3448億円なので、関税影響分の▲2750億円を超える減益となりました。トヨタがトランプ関税の影響分だけ減益しているのと比較すると、経営努力の結果には差がついたと言えます。
加えて、昨年度▲6709億円を計上した純損失については、上期も▲2219億円の損失を発表しました。今後、神奈川県の追浜工場の閉鎖などリストラ費用がかさみます。グローバル販売台数も日産は前年比で▲7%の減少を見込んでいるなど逆風は大きいわけで、現時点で未定としている今期末の純損失は厳しいものになりそうです。
三菱自動車は同じく7月に▲400億円としていた関税の影響を、今回の決算発表で▲320億円としています。また年度見通しとしてはグローバルで販売台数を前期とほぼ同じとしています。ただ上期の販売台数は前年同期比で▲6%と減らしており、上期決算では純利益が赤字転落していることから、下期でこれをリカバーするのは困難を伴いそうです。
出典=三菱自動車工業株式会社決算資料
ホンダ、マツダ、スバルはこの記事が出た後に決算が発表されます。ホンダは5月の段階で当時25%と設定されていたトランプ関税を前提に年間の影響額を▲6500億円と想定していました。日本からの輸出が多いスバルが5月当時の影響が▲3600億円、マツダが▲1100億円となっていますが、いずれも25%のときの試算です。







