理由がいつの間にか「空気の質」から「視覚的な圧迫感」に変わっていることには注目すべきだろう。
この根拠とされた調査は、天井高さ2.7mの教室を1週間ほど体験した児童から感想をもらうというもので、7割がマイナス評価だったという。
しかしこの調査に対しては、同じワーキンググループにおいて委員たちから、1週間では「慣れ」の効果は見えない、ネガティブな感想しか出ないアンケート設計だ、という強い批判があった 。
その直後の3月、「規制改革・民間開放推進3カ年計画」が閣議決定され、その中で「学校の教室の天井高さの見直し」が挙げられ、2004年度に検討して2005年度に結論を得るとされた。
そこで文部科学省は、天井高さが3m、2.7m、2.4mの教室を実際に利用した児童生徒や教師に聞き取り調査を行うという研究を実施した。
その結果、教室の天井高さが児童生徒の心身の健康に与える影響に大きな差はみられないことがわかった。
天井の高さ3m規制が
140年ぶりに廃止された
また、海外の学校における教室の天井高さの規定や学校以外の建物の天井高さなども調査し、結論として「空気汚染の緩和及び視覚的・心理的・身体的な環境の保持の観点から、現在では、天井高さについて、3メートル以上なければならない直接的な根拠は見出せない」という報告がなされた。
2005年9月には、「建築基準法施行令において学校の教室のみに定められている天井高さ3mの最低基準は廃止することが適当であるとの結論に至った」とする中間報告書が公表された。
『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』(永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生 講談社)
これを受けて同年11月、政令が改正され、学校の教室の天井高さにおける特例(いわゆる3m規制)が、140年ぶりに廃止されたのだった。
最初に異議申し立てをした埼玉県草加市ではさっそく、天井高さを2.7メートルとした新校舎が建てられた。ただし、階段の踊り場は引き続き、設置されているとのことである。
学校を舞台とする映画やドラマには、必ず踊り場でのシーンがあった気がする。友人や恋人と踊り場で会話したことを、学校時代の思い出に挙げる人も多いのではないだろうか。
石炭ストーブによる一酸化炭素中毒を防ぐために設けられた天井高さの規制が、もしも石炭ストーブが使われなくなった時点ですぐに緩和されていたなら、それも一般の公共施設並みに緩和されていたならば、学校の階段から踊り場が消えていたかもしれない。







