「デザイン経営」という旗印のその先へ
国の後押しは今、十分といえるか
――「『デザイン経営』宣言」は、その経営とデザインの橋渡しの試みでもありました。国がこれを掲げてから7年が経過しました。策定に関わられた立場として、成果をどのように捉えていますか。
「デザイン経営」という言葉が生まれたこと自体は、とても意義があったと思います。国がデザインの重要性を公式に示したという点で、大きな前進でした。
ただ、その言葉だけが先に広まり、中身の理解や実践がまだ十分とはいえません。「デザインを経営に取り入れましょう」と言われても、実際にどう取り入れればいいのか、私たち自身もまだ説明し切れていなかったのだと思います。
本来は「デザイン=経営資源」という視点で、デザインを企業の資産としてどう生かすかを明確に示す必要があった。その意味では、もう一度立ち止まって考え直す時期に来ているのかもしれません。
冗談半分に「『いまさら聞けないデザイン経営セミナー』をやるべきでは」と話しているんですが(笑)、それくらい、改めて整理し、伝え直す努力が必要だと感じています。
――同宣言そのものが、国がデザインを後押しする姿勢を示すものでした。その後の行政の取り組みについてはどうお考えですか。
それ以降の政策を見ると、本格的な後押しにはなっていないのが現実です。その理由の一つは、産業におけるデザインの位置づけに対する理解が十分に共有されていないことだと思います。つまり、産業競争力に対してデザインがどうインパクトを与えるのか——その視点が政策全体の中で十分に意識されていないんです。
例えば中国では、自動車産業を中心にデザイン投資が急速に進んでいます。欧州のデザインオフィスの責任者を招聘したり、海外で学んだ若いデザイナーを呼び戻したりして、国家レベルで人材の循環をつくっている。
一方で日本は「クールジャパン」の名の下、家具や雑貨、伝統工芸などへの支援が中心です。それ自体は悪くありませんが、産業としてのスケール感がまったく違う。
こうした認識の差は、行政の体制にも表れています。英国やドイツをはじめとする海外では、クリエイティブ産業を国の成長戦略の一部として位置付け、関連省庁が横断的に関与しています。さらに、その政策を実現・推進するための中間組織も整備されています。それに対して日本は経済産業省の「デザイン政策室」にとどまっており、本格的な「デザイン国家戦略」やデザインを包括的に扱う「デザインカウンシル」のような仕組みもまだ生まれていません。
――「『デザイン経営』宣言」の策定において、企業の取り組みとしてだけでなく、国家戦略として継続した取り組みを促す議論はなかったのでしょうか。
実は、「『デザイン経営』宣言」をまとめるとき、最初は「デザイン立国宣言」という案もあったんです。でも、いろんな調整の中で、結果的に「経営」という言葉に落ち着いた。あのとき「立国」にしておけば、もう少し違う流れになっていたかもしれませんね。
ただ、今からでも遅くはないと思っています。経営だけでなく、産業も社会も文化も——国全体をデザインでつないでいく。本来の意味での「デザイン立国」を、これから解像度高く描いていくべき時期だと思います。








