デザインを経営に生かせるのは“人”の力
求められる姿勢と、次代のリーダー像とは

世界的なデザイン賞が見た「日本の可能性」、デザインで産業の国際競争力を取り戻すために必要なこととはKAZUO TANAKA
GKデザイン機構代表取締役社長CEO、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会元理事長、公益財団法人日本デザイン振興会グッドデザイン・フェロー、World Design Organization(WDO)リージョナルアドバイザー、Red Dot Ambassador, Germany
1956年東京生まれ。83年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修士課程首席修了後、株式会社GKインダストリアルデザイン研究所入社、2007年株式会社GKデザイン機構 代表取締役社長、国際インダストリアルデザイン団体協議会(icsid/現・WDO)理事(-11)、16年財団法人台湾デザインセンター 国際デザイン顧問、17年経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員、『「デザイン経営」宣言』策定コアメンバー、23年WDO世界デザイン会議東京2023実行委員長、25年より公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会チーフデザインディレクター。

――デザインを経営に生かすためには、経営者層にデザインへの見方や感性を持つことが求められます。それを実現するには、どのような経験や仕組みが必要だと思われますか。

 シンプルに言えば、「いいものを知る」ことです。どんなに言葉で説明しても、造形のセンスや美意識は経験値からしか生まれません。いいデザインを見て、触れて、自分の中に基準を作ることが一番大事なんです。

 以前、ある企業の社長さんに冗談半分で、「うちの製品を受賞させてよ」と言われたことがありました。でも、その方が実際にグッドデザイン賞の受賞作を見た後で、「うちはまだこのレベルじゃない」と言って応募を取り下げたんです。

 そういう意味では、企業の経営者層にも、ぜひJIDAのデザインミュージアムセレクション展に足を運んでいただきたいと思っています。

 今年(2025年)からJIDAの理事に就任されたキヤノンの石川慶文さんが、セレクションを見て、最初におっしゃった一言がとても印象的でした。

――何と言われたんですか。

「ここには本物のインダストリアルデザインがありますね」と。その言葉に、私もハッとさせられました。あのセレクションには、日本のモノづくりの根っこにある「質」の基準がちゃんと残っている。経営に携わる方々が、それを自分の目で見ることが、デザインを資産として捉える第一歩になると思います。

――経営者層の理解だけが進んでも、実際のビジネスは動きません。ビジネスの現場で、デザインをどう経営と結び付けていくべきだと考えますか。

 そうですね。経営者層だけじゃなくて、デザインを社会や産業の中で動かせる人がもっと必要だと思います。最近では、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブをつなぐ「BTC型人材」の必要性とか、企業の中に「CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)」という役職が生まれつつあります。組織や課題によって求められることは微妙に変わるかもしれませんが、大事なことは、デザインの質を産業やビジネスの視点で語れる人が増えることだと思います。いわば、デザインを感覚や表層ではなく、構想や仕組みとして扱える人です。

 そして、社会や経営の言葉で翻訳できる人。そういう人がもっと出てこないと、デザインは広がっても深まらない。

 今年9月、WDO(世界デザイン機構)の次期プレジデントに日本デザイン振興会の津村真紀子さんが選ばれたことは、本当に象徴的です。日本のデザインが、ようやく世界の議論の中で存在感を持てるようになった。津村さんには、世界のデザインの潮流と、日本の経営、産業をつなぐ橋渡しをしてほしいですね。

 日本のデザインは、モノづくりの質では今も世界に引けを取りません。その質を高めながら、社会やビジネスの構造につなげていける人が出てくれば、デザインはもう一度、日本の産業の力になると思います。