『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第37回ではSPAモデルと街のケーキ屋の関係について解説する。
「君は大量の現金を持っているんだよ」
自らの会社である花岡企画でTシャツ専門店「T-BOX」の事業を手がける主人公・花岡拳。いまだに望むかたちでの銀行融資を得ることもできず、新店舗の出店に向けた資金集めに苦戦中だ。
花岡はその状況を出資者・塚原為ノ介に話すと、塚原は「銀行は、(花岡たちのように)取引実績が浅ければ融資には臆病になるものだよ」と説明。その上で、花岡が塚原から追加出資を求めないことをほめる。
「資金が必要なたびに頼っていたのでは、その先どんなリスクが潜んでいるかきちんと予測できていない証拠。将来、大物の経営者になるにはそうでなくては」
そして塚原は、花岡に次のように語るのだった。
「実は現時点でも君は大量の現金を持っているんだよ。売れさえすれば現金…」
「現金は…現金を呼ぶものだ。黙ってても向こうからやってくるよ」
巨大アパレル企業と街のケーキ屋の共通点
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
塚原が言う花岡の持つ「現金」とはズバリ、T-BOXの商品であるTシャツのことだ。これまで本連載で触れてきたとおり、T-BOXはSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)モデルのビジネス。自らの会社でTシャツの製造から販売までを一気通貫で手がけているのだ。
SPAモデルでは卸売業者や物流業者などの中間コストを削減できる。多少極端ではあるが、花岡の言うとおり、「(Tシャツを)売れば現金が即、懐に入る仕組み」というわけだ。加えて言うなら、キャッシュフローも素早く回る。
花岡の指摘は、一見アパレル業界だけの話に聞こえるが、「小売業の原点」を突いている。
もともとSPAモデルというのは米・アパレルのGAPが提唱した概念だが、花岡はアパレルに限らず、街のケーキ屋、団子屋、惣菜屋、豆腐屋も同じだと主張。「ハイテクだデジタルだと世の中騒いでも、実は商売、これが一番なんですよ」と豪語する。
街のケーキ屋や団子屋も原材料を仕入れ、自らの工房で製造し、その日のうちに店頭で販売するという意味では「ミニSPA」と言える。
製造から販売までを自ら完結させることで、原価と利益の構造を完全にコントロールできるからだ。もちろん「生もの」であるがゆえの廃棄率や、直近の原価高騰などの話を簡素化した話ではあるのだが。
一方で、スーパーや百貨店のように、中間流通に依存すれば、利益は分散し、支払いサイトも長くなる。つまり「モノが売れても現金が入ってこない」という状態に陥りやすい。
塚原の言う「現金は現金を呼ぶ」とは、単に資金繰りの話ではなく、製販一体で現金を“循環”させる構造を持つ者こそが強いという経営の鉄則を指しているのだ。
いよいよ夏が到来し、Tシャツの繁忙期を迎えた。だが気温はまだ低く、雨も降り続く。花岡企画の幹部たちは不安な表情を浮かべるが、そこに辞めたはずの幹部が再び姿を現す。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







