「テストの点数が悪い高2の息子。部活動を辞めさせて勉強させたほうがいいですか?」
新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「勉強が苦手だったり、勉強をしたくない子どもにもチャンスがある」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、高校生の親御さんはもちろん、中学生の親御さんにも知っておいてほしい最近の大学入試について解説します。

高校 中学 大学入試Photo: Adobe Stock

変わりゆく大学入試の形

近年の大学入試は、かつての「ペーパーテスト一本勝負」から大きく形を変えています。国公立大学でも私立大学でも、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜といった仕組みの割合が増え、今や大学入学者全体の半数近くが、一般入試以外のルートで合格しているとも言われます。

こうした入試では、知識量や偏差値だけではなく、高校時代にどのような経験をし、それを通じて何を学び、大学でどう生かしたいのかが重視されます。小論文、面接、グループディスカッション、活動報告書――そうした形式の中で「自分の物語」を語れるかどうかが合否を分ける時代になってきているのです。

しかし一方で、親世代の多くは「受験=一般入試での一発勝負」という時代を経験しています。そのため、自分が受験した頃の感覚で子どもにアドバイスをしてしまうことがあり、それがかえって子どもの選択肢を狭めてしまう危険があります。

バスケ部を辞めさせるべきか?

中高一貫の中堅都内私立校に通うAくん。彼は中学からバスケットボール部に所属し、毎日忙しく練習に励んでいます。その分、勉強の成績は学校内で「中くらい」。高2の2学期には少し成績が下がり、親としては不安が募りました。

「大学受験のことを考えると、無理にでもバスケ部を辞めさせて、高2の3学期からは受験勉強に専念させるべきではないか」

質問:あなたがAくんの親なら、どちらを選びますか?
①Aくんにバスケ部を辞めさせる
②Aくんにバスケ部を続けさせる

みなさんがどちらを選ぶかはわかりませんが、自分がこの質問をすると、この状況だと「1」の方がいいのではないかという親御さんは割と多いです。「バスケを続けたって将来のためにはならないが、勉強は将来のためになる。親として子供の将来を考えるのであれば、ここは子供に多少憎まれてでも、バスケ部を辞めさせるのが親の役割なのではないか」と。

本当に正しい選択肢はどちらか

しかし、多くの生徒を見てきた立場から言えば、この場合に「1」を選ぶのはむしろ危険です。理由は二つあります。

一つ目は単純に、親が無理に介入して部活を辞めさせること自体が、子どもの主体性を奪い、親子関係に亀裂を生む危険があるからです。これでは勉強に専念するどころか、反発や無気力を招いてしまうことが多いのです。こちらは、多くの人が思い付いたことかもしれませんね。

しかし、実はそれ以上に大きな問題があります。今回の場合、「親御さんは大学入学の選択肢を広げるために辞めさせるべき」と考えていると思いますが、令和の今、それは大学入学の選択肢を狭めてしまう可能性が高いのです。

部活動の経験は「合格の武器」になる

ペーパーテストだけを考えれば、部活は確かに「遠回り」に見えるかもしれません。しかし、総合型選抜ではむしろ大きなアピール材料になります。

総合型選抜では、中学校や高校時代にどのような経験をしたのか、それを経て大学でどんな勉強をしたいのかが評価されます。1つの部活動を中高6年間続けるというのは、活動実績としてアピールすることができる大きなファクターです。別にインターハイのような輝かしい実績がなかったとしても、例えばその部活で部長や副部長などの役職について人間関係をまとめるような経験をしているのであれば、志望理由書に書くことができます。

「部活で後輩に教える中で、人に何かを伝えることの面白さを知った。だから、教育学部を志望する」「チームでの勝利を目指す中で、戦略やデータ分析の重要性を感じたから、経済学部や情報学部を志望する」。このように、部活の経験を糧にして「自分のストーリー」を語る人は多いです。

親世代とのギャップが生む失敗

昔の大学受験を知る親にとっては、「勉強時間を増やすこと」が最優先に映ります。しかし、現代の入試では「学びの文脈をどう作ってきたか」が問われています。親がその変化を理解しないまま、子どもに昔ながらの受験観を押しつけてしまうと、せっかくの総合型選抜のチャンスを奪ってしまうのです。

実際に、部活動や探究活動を途中で辞めてしまったことで、志望理由書に書けることがなくなり、総合型選抜の出願資格を満たせなくなってしまった生徒も少なくありません。

Aくんのケースのように、「勉強と部活の両立」で悩む家庭は非常に多いです。親の立場からすれば「辞めさせてでも勉強を」という気持ちは理解できます。しかし、今の大学入試を考えれば、部活を続けること自体が大学合格に直結する強力な武器になるのです。

親に必要なのは、子どもの未来を狭める指示を出すことではなく、新しい大学入試の仕組みを理解し、その中で子どもの強みをどう生かすかを一緒に考えることです。

大学入試の世界は大きく変化しています。だからこそ、親もまた「アップデートされた受験観」を持つことが求められているのです。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)