驚くべきことにこの「ユニークな辛さ」というたまたま生まれたコンセプトは、それから30年が経った今でも、私は人生に活かしています。しんどいことがあるたびに「ユニーク度チェック」をし、ユニークであればあるほど「いい!」と逆に喜んでしまうこともあります。これが、コンセプトが持つ力です。

企業におけるコンセプトは
「浮く」ためのもの

 そもそも「コンセプト」とは、ビジネスでよく使われる言葉です。缶コーヒーを例に考えてみましょう。1992年にサントリーから販売開始された「BOSS」。よくよく考えてみると、面白い名前ですよね。コンセプトは「働く人の相棒」だそうです。毎日働く人に寄り添い、リフレッシュできる一瞬をサポートする。そんな想いが込められています。

 他の缶コーヒーも、アサヒ飲料Wondaの「目覚めの一杯」、UCCBLACK無糖の「コーヒー好きのためのブラックコーヒー」などと、それぞれ別の方向性を打ち出しています。どうしてでしょうか?

 それは、コンセプトがないと「誰がいつ飲んでもいいですよ」というふんわりとした訴求しかできないので、消費者から選ばれづらくなるからです。そのため、売れている商品には必ずと言っていいほど良いコンセプトがあります。

 また、他社と同じようなありふれたコンセプト(たとえばBOSSに対して「PARTNER」など)をつけてしまうと、既にあるブランドとの真っ向勝負になるわけで、分が悪いかもしれないですよね。だから、他社とかぶるようなコンセプトもビジネスでは避けられています。

 そう、ビジネスにおけるコンセプトとは「他社とは違う、独自の立ち位置」を決めるためにあるんです。言い換えると、ビジネスにおけるコンセプトとは一貫して他の存在から浮き続けるための芯のようなものなんですね。

 さて、「浮く」という言葉が出てきました。ここで不思議なことに気がつきませんか?私たちは1人の人間としては社会から浮くことを恐れていますが、企業はむしろ浮いた存在であろうとしているんですね。

 もちろん個人と法人では生存戦略がちがいます。個人は集団で生活した方が、攻撃力も守備力も高まり、ピンチのときでも生き延びる確率があがります。だから浮かない方がいい。