シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

マンネリを脱して自分の視野や思考を広げる、手っ取り早い方法Photo: Adobe Stock

ルーティンとは守るものであり、壊すもの

 私が好きでいつも心がけている言葉に「オクシモロン」という言葉がある。これは、「ものを定義するときに、意味の矛盾する語句が同時に成り立つ」というものだ。

 例を挙げると、

 ・人間は美しく、そしてみにくい
 ・アジア市場は機会であり、リスクである
 ・テクノロジーは危険なものであり、人類の未来を切り開くのに必須の道具である

 というようなものだ。

 オクシモロンは、ギリシャ語が語源で「oxys」は「鋭い、鋭敏な」を意味し、「moros」は「愚かな」を意味する。
つまり、オクシモロンという言葉自体が矛盾する言葉の組み合わせで出来上がっているのだ。

 私は、ルーティンをとても大事にしている。朝起きると、必ず瞑想して、プランク(体幹を鍛えるトレーニング)をして、軽く自宅近くをウォーキングしてから仕事のアポに向かう。

 昼休みは、必ずジムに行く。食べるものもタンパク質やビタミンやミネラルが豊富で、糖分や脂肪分は避ける。

 そして仕事や投資でも、自分の芸風を守って進め、自分に分不相応なものは避ける。よく出張するところでは、必ず定宿を決めてそこに泊まる。使うエアラインも決まっている。

 ただ、同時にルーティンを壊すような作業もやっている。ここがオクシモロンである。ルーティンとは守るものであり、壊すものでもあるのだ。

 仕事やジムに行くときは、何度かに一度はいつもと違う道を通ってそこへ向かう。違う道を通ると、常に新たな発見がある。新しい店を見つけたり、今までつながらなかった裏道がつながったりする。

ルーティンにとらわれると、
自分の思考や可能性を狭めてしまう

 ダイエットではチートデイといって、食事制限を外して好きなものを食べて、食事制限のストレスを緩和し、ダイエットが全体としてうまくいくようにするライフハックがある。

 それと似ているが、たまに、普段だったら絶対にオーダーしないものを頼んでみる。

 普段は行かない店に行ってみたりする。有名な店で甘いケーキを思いっきり食べたり、脂肪分たっぷりの揚げ物や中華を頬張ったりする。

 また、自分が投資すると決めているテーマから外れたものを紹介されたりする機会もあるが、たまにはそれをパスせずに、その話を聞きに行ったりもする。

 そして少額でも投資してみたりする。ルーティンを持ち、それを守ることは、精神や肉体の安定を保つためや無駄な労力を省いて目的に集中するためには、とても重要だ。

 しかし、同時に、ルーティンにとらわれることは、自分の思考や可能性を狭めてしまうことにもなる。

自分の狭い思考を
ビックリ体験が押し広げてくれる

 私は、たまにルーティンを壊すことによって、脳をビックリさせるようにしている

 よく通う場所に行くために、いつもと違う道を歩いたり、一駅手前や一駅先で降りて歩いてみることは、新しい風景に出会い、気持ちを新鮮にさせる。

 いつもは注文しないものを、あえて注文して食べてみると、自分の嗜好や味覚の変化に気づいたりして、新しい好みを発見することになる。

 普段なら絶対行きたくない場所やイベントに行ってみることも、意外に楽しかったりする。こういうことをすると、たいてい発見があるし、脳がビックリすることが起こる。

 私の人生は、好きなものを食べ、好きな場所だけ行き、好きな人とだけ会い、好きなことをやってきた人生であった。

 しかし、たまのハプニングが自分の思い通りにいかないことを、自分の人生で起こしてくれた。

 そのときに、必ずとは言わないが、かなり高い確率で、自分の視野や思考が広がることがあったのだ。

 それからは、自分でハプニングを起こすべく、ルーティンをたまに壊すことをやっている。

 さらにおススメは、話題のイリュージョンとかマジックショーを見に行くことである。

 華麗なマジックをしてくれるバーでもいい。もちろん、マジックなのでタネはあるが、目の前で何かが消えたり、現れたり、形が変わったり、これはかなり脳への刺激になる。

 自分の狭い思考をビックリ体験が押し広げてくれる。物事を理詰めで考える人ほど、洗練されたマジックショーやイリュージョンで衝撃を受けやすい。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。