スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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富裕層が最期に気づく「大切なこと」
以前、ある作家が60歳以上の高齢者に人生についてインタビューをした本を訳したことがあります。その中で著者は、ある富裕層の男性がこう語ったと記しています。
「わしは、人生の大半をモノに費やしてきた。自分の優先順位のなかで、人はモノよりずっと優先順位が低かった。だがね、いまになってわかったよ。老人ホームには、わしのBMWは訪ねてきてはくれんのだ」*
出世や所得を増やすことばかりにかまけ、その収入で高級品を買ったところで幸せにはなれない、やはり人間関係が財産だということを、とても明確に伝えるメッセージだと思いました。
著者は、高齢者たちの後悔や生きざまから得たそうした人生の極意を「5つの秘密」にまとめています。それは、「自分の心に忠実であれ」「思い残すことのないように生きよ」「愛になれ」「いまを生きよ」「得るより与えよ」の5つです。
「いまを生きる」というキーワード
高齢者たちのメッセージは、『一点集中術』で著者が説くメッセージとまさに共通していると思いました。『一点集中術』では、「いまここ」に意識を向け、一度に1つの作業に没頭することこそが人生の質を高める核心だと説いています。
一点集中術のセミナーで私がこの問いを投げかけると、じつにさまざまな回答が得られる。絵を描いたりものづくりに取り組んだりしているとき、スポーツをしているとき、愛する人と一緒にいるとき、趣味を楽しんでいるとき。
さまざまな回答があり、その範囲は無限だ。だが、どの回答にも1つだけ共通点がある。誰もがその体験に没頭しているからこそ、満足感を覚えているのだ。完全に集中しているからこそ、幸せな気持ちになれる。――『一点集中術』より
「幸福になる鍵は、いまというこの瞬間にどっぷりと浸ること」だという研究も本の中では紹介されています。
高齢者たちが人生の終盤で語った知恵と、『一点集中術』が教える集中の技術は、実は同じことを指しています。
それは、過ぎたことを悔やまず、未来を過剰に恐れず、「いま目の前にあること」を大切にし続けるという姿勢です。
私たちは、つい多くのことを同時に抱え込み、気づけば心がどこにも定まらないまま一日が終わっていきます。
しかし、人が本当に「生きている実感」や「幸福感」を味わえるのは、何かに深く没頭している瞬間です。高齢者の語る人生の真理も、最新の心理学の研究もその点では驚くほど一致しているのです。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)



