1つは政府公認の入植地で、もう1つはイスラエル政府でさえ公認していない入植地である。後者は英語でアウトポストと呼ばれ、ここでは「前哨地」と訳出する。

同胞を守る大義を掲げて
違法な入植地を建設する

 イスラエル政府が入植地を承認するプロセスは多段階的で、ヨルダン川西岸を管轄するイスラエル軍当局の委員会などが計画を審査し、公告や入札を経て建設が進められる。首相の同意を含む国防相らの承認も必要で、国際関係や安全保障上の問題が考慮される。これらが通常の入植地建設である。

「前哨地」はこうした承認プロセスを全く無視する形で、勝手に入植者たちが目星を付けた土地に住みはじめる形で建設され、実際にそれなりの集落になる場合がある。

 そして、イスラエル国内でさえ違法に始まった「前哨地」建設を後から承認プロセスに乗せてイスラエル当局が事後的に承認、公認「入植地」へと格上げするケースもあり、外部からは余計に複雑に映る。

 ここで青年らが建設していたのはもちろん「前哨地」である。

 2021年5月上旬、付近の交差点でユダヤ人のイェフダ・グエタ(当時19)がパレスチナ人に銃で撃たれ死亡した。それを受け「前哨地」建設が始まった。

 2013年にもこの近辺でユダヤ人青年が殺害される事件があり、その青年の名にちなみ、この「前哨地」はエビアタルと名付けられた。殺人事件――イスラエル政府は「テロ」と呼ぶが――と入植地建設という何の関係もないはずの両者が「ユダヤ人を守るためには、入植地が必要だ」との論理に飛躍する。

 エビアタル建設を主導するのが入植推進団体「ナハラ」である。

 ナハラが呼びかけると、声をかけられた人がさらにまた呼びかける形で、急速に人が集まってゆく。そして建設資金として寄付が集まり、周辺に位置する入植地の自治体が水道や電気の整備を開始し、その下支えとしてイスラエル兵が護衛する。

 そんな形で約1カ月半の間に、簡易プレハブとはいえ、住宅など約50棟の構造物が建てられ、シナゴーグや保育園も備えたそれなりの「街」が出来上がった。