僕らもその場その場で一生懸命に生きていくしかできないはずだ。まあ、人間の特権として、いろんな生き物、たとえばアリたちから学んで多少修正することくらいは許されるかもしれない。
「子育て」担当のアリは
不眠不休で育児をする
睡眠時間の話でもうひとつ。世界的にも睡眠時間の短さが指摘される日本人だけれど、おそらく国を問わず、眠れていないのは子育て中のお母さん、お父さんだろう。
0歳児の育児中は、「睡眠時間が2~3時間」とも「まとまってはほぼ眠れない」とも言う。かくいう僕も子育てはどんな調査、研究よりもハードだった。
それはアリも同じ、という研究がある。岡山大学学術研究院(当時は東京大学大学院在籍)の藤岡春菜博士は、沖縄に生息する「トゲオオハリアリ」でそれを明らかにした。
トゲオオハリアリはとてもユニークな生態を持つ。「女王」という階級がなく、すべてのアリが卵巣と貯精嚢を持つ。
産卵個体が死ぬなど、なんらかの理由で繁殖する個体の座が空席となると、次に生まれてくる子どもたちの間で「ゲマ切り」と呼ばれる熾烈な繁殖個体を決めるための儀式(バトル)がはじまる。「ゲマ」と呼ばれる翅の痕跡器官の齧り合いをするのだ。
そんなトゲオオハリアリは昼行性のアリで、本来、昼間に行動して夜休む。しかし、成虫のアリを卵や幼虫と同じ環境におくと、働きアリは夜も休むことなく働きっぱなしとなる。
「子育て」という役割を与えると、不眠不休で卵や幼虫の世話をするようになり、幼虫が蛹の状態になると、通常の生活リズムに戻るというのだ。
卵や幼虫は常に清潔に保たないと、カビや細菌などによってすぐに死んでしまう。そのため、夜も休むことなくグルーミング(編集部注/脚などを使って体をきれいにすること)をしたり、巣をきれいにしたり、気が抜けない。しかし、蛹になると繭に包まれるため、それほどこまめなお世話は必要ない。
手がかかる間は、自らの睡眠時間を削ってでも大切に面倒を見て、成長に応じて、そんな生活も終わる。そんなところも人間と共通する。







