「これからの時代に成功する人」と「社会からズレる人」普段の生活でわかる決定的な違い【マンガ】『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第104回は、「SDGs」などの概念について考える。

説明しがたい「冷めた感情」

 東大合格請負人・桜木建二は、龍山高校を改革する柱として「メシを食う力」の教育をあげる。学校の授業と人生を結びつけて教育することで、「フラットな目線」を持つ生徒の育成を目指すというのだ。

 最近、SDGs(持続可能な開発目標)やDEI(Diversity, Equity, and Inclusion、多様性・公平性・包括性)といった言葉を多く耳にするようになった。教育現場も例外ではない。これらの概念は、まさに「新しい時代」を生き抜くためには必須と言っていい基本的な考え方だ。

 ただ、自分や周りを見てみると、これらの概念を一枚岩に素直に受け止めているわけではない、というのが現状だ。

 もちろん、SDGsやDEIが大切なのはわかっている。あえてそのような規範を積極的に破りたい、というわけではもちろんない。だが、同時に説明しがたい「うさんくさい」「それっぽい」 という冷めた感情が渦巻いている。

 この違和感の原因の1つとして、これらの考え方は「自分で生み出したものじゃない」という点があるのかもしれない。「次の時代はこうだよね」と暗黙の了解のように規定されてしまうと、私たちは心からの自信や確信を持つことができない。

 ただ、明確に反発しているわけでもない。なぜなら、SDGsやDEIに対する「若者全体の統一意思としての」代替案があるわけではないのだ。冷めた視線は持っているが、自分たちの力だけで社会の構造を変える道筋や、具体的な方法論を見つけられていない、という無力感が同時に存在する。

「多様性を尊重」ストーリーに違和感

漫画ドラゴン桜2 14巻P3『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 そもそも、「若者」とひとくくりにされることへの抵抗もある。2021年には「Z世代」という言葉が流行語大賞のトップテン入りしたが、「私たちはZ世代だ!」という連帯感はあまりない。確かに、私たちの世代は趣味も好みもバラバラで、そのような自分を恥じることなくSNSで堂々とアピールしているかもしれない。

 でもそれは「多様性」という規範に向かっているわけではなく、ただ好き勝手に行動した結果にすぎない。だからこそ、あたかもそれが「多様性という軸を大切にしている」というストーリーに当てはめられると、違和感を覚えるのだ。

 少し前に話題になった「トー横キッズ」も、見方を変えれば1つの多様性だ。ただ、彼ら彼女らが多様性として扱われることは少ない。むしろ、社会の異分子として描かれることの方が多いのではないだろうか。もちろん解決すべき社会問題が存在することは事実だが、多様性とはキラキラと光り輝いているものだ、という規範にとらわれるのは危うい。

 結局、ある抽象的な概念を作ろうとすると、本来想定していなかった「例外」の扱いに苦労する。だが、「例外」とされる人たちだって人生を全うしているし、無視される言われはない。現実を直視するのならば、「清濁合わせのむ」覚悟が必要だ。

 では、教育という視点から考えた時に、SDGsやDEIといった「お行儀の良い」概念をどう扱うべきなのだろうか。

 無批判に肯定することも、斜に構えて全否定することも望ましくない。むしろ探求すべき材料として、「なぜこのような概念が生まれたのか」「現実にどのように応用され、どのような意見を集めているのか」と分析してみるのも面白いだろう。

漫画ドラゴン桜2 14巻P4『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 14巻P5『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク