次に遺伝率が高いのは“性格”で、多くの研究では、私たちの性格は約50%が遺伝の影響を受けるとしている。「不安になりやすいかどうか」や「人づきあいがよいかどうか」といった生まれつきのパーソナリティにも、遺伝が大きく関わるわけだ。

 他に遺伝率が判明している特性としては、芸術的な才能が約40%、政治的な立場が約30~60%、運動の習慣が約30~50%だと言われる。遺伝が人生のあらゆる側面に影響をおよぼすのは確実だ。

「努力は意味をなさない」という
遺伝率にまつわる言葉の真偽

 これらの数字に気持ちが沈んだ人もいるだろう。「あなたの未来は遺伝で決まる」という言葉は、裏を返せば「努力などしても無意味だ」や「頑張っても人生は変えられない」と言っているに等しい。これが事実なら、私たちに自由意志は存在しないことになってしまう。

 ケンブリッジ大学の分子神経科学者ハンナ・クリッチローも、こんな発言をしている。

「現代の遺伝学は、私たちが意識する以上に、遺伝が人生に影響を与えている事実を示した。このことは、『私たちは自分の人生を本当にコントロールできるのか』という古くからの疑問を改めて提起している」

 なんとも気が滅入るような問題だが、果たして私たちの運命は本当に遺伝で決まり、努力は意味をなさないのだろうか。

 問題の答えを得るために、まずは「遺伝率とは何か」を考えてみよう。

 多くのメディアでは「学校の成績は遺伝が70%」や「青年期のIQは半分が遺伝」といった数字だけが独り歩きしがちだが、“遺伝率”がどのような考え方なのかを掘り下げたものは多くない。巷間に語られる「遺伝が影響している」とは、具体的にはどのような現象を指すのだろう。

 そこで、第一問。次の問題の答えを考えてみてほしい。

問1 IQの遺伝率は約70%だと考えられている。この数値は、次の3つのうち、どのような状態を意味するだろうか?

1 親のIQが高いときは、その子供も70%の確率でIQが高くなる。つまり、親のIQが低ければ子供のIQも低くなることが多い。

2 自分のIQの70%は遺伝で決まるため、努力は30%しか意味がない。または、自分のIQが100だった場合、そのうち70点分は遺伝で決まり、残り30点分は環境で決まる。

3 IQの70%は生まれつきで決まり、その数値は何をしても変わらない。