「努力には意味がない」と才能や知性を遺伝的要因に見出す人に与える薬写真はイメージです Photo:PIXTA

「遺伝で能力とその後の人生は決まる」。そんな思い込みにとらわれていないだろうか?一般的に遺伝率は高く、その人の資質や性格に大きく関わっているといわれている。とはいえ、生まれ持った遺伝子の支配からは生涯、逃れられないものなのか?科学的なデータをもとに、気鋭のサイエンスジャーナリストが紐解いていく。※本稿は、サイエンスジャーナリストの鈴木 祐『社会は、静かにあなたを「呪う」 思考と感情を侵食する“見えない力”の正体』(小学館クリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。

遺伝が及ぼす影響力は
どの程度のものなのか

「遺伝子が人生を支配する」といった“呪い”をよく見かける。

「人生の成功は、親から受け継いだ遺伝で決まる」

「生まれつき遺伝に恵まれないと、努力しても無駄」

「人生は生まれで決まってしまう“遺伝ガチャ”だ」

 他にも、「才能の半分は遺伝」「性格の大半は遺伝」「頭のよさは遺伝」などの主張も、半ば常識のように語られることが多い。

 たいていの場合、これらのフレーズの後には、「人生は残酷なのだから、その事実を受け入れるしかない」や「遺伝という不平等を前提にして現実を諦めろ」という主張が続く。それとは逆に、「遺伝の影響は半分だから、残りは努力でどうにかなる」と、あいまいな希望が提示されるケースもよく見かける。

 遺伝が私たちの能力や資質に影響するのは事実で、ある大規模な双生児研究によれば、知能の遺伝率は約66%にもおよぶ。この数字は高齢者ほど大きくなる傾向があり、私たちの学習能力や問題解決能力は、人生の後半になるほど遺伝の支配力が増すのだと考えられる。