「愛国者治港」下において、中国当局は香港の政治関係者が外国使節と接触することを厳しく禁じている。すでに政界を引退したとはいえ、曾氏は2期に渡り立法会主席を務めた親中派の大物だった。その彼が英国領事館のパーティで、総領事だけではなく、中国当局が「香港を混乱させた黒幕たち」と呼ぶ民主派元議員らとにこやかに杯を交わす写真はなかなか刺激的だった。それを見て、「思わず目頭が熱くなった」という香港市民もいた。
そう、かつて香港の政界は、民主派であろうが親中派であろうが、議員たちは議場で舌戦を演じても、議場を離れると普通に冗談も飛ばすような、そんな関係にあった。外国領事たちとも日常的に接触して、香港を世界の潮流に乗せ、世界の最先端に向けて舵を取る役割を担っていたのだ。
バージョン2では、メディアなど民間団体が主催してきた政策討論会も中止された。一方で政府主催の討論会では、候補者は自身の政策を垂れ流すものの、他候補への「ツッコミはゼロ。大変、「和気あいあい」とした「討論会」となった。
もちろん、市民はそんな討論会には満足していない。ネットでは、国家安全法以前の選挙で行われた政策討論会で、民主派候補者が親中派候補者に、「あなたは(中国の国旗である)五星紅旗の五つの星の意味を知っているか?」と詰め寄る動画が狂ったようにシェアされている。その質問に香港育ちの企業家親中派候補は答えられず、言葉を濁したのを見て、民主派候補が「大きい星は中国共産党だ。小さいのは労働者、農民、小資本階級、知識階級だよ」と答え、会場の大きな拍手を浴びていた。
今ではそのどちらも議場を去ってしまった。今の議員たちは「愛国者治港」の名の下、世界に背を向け、中国ばかりを見ているが、この質問に答えられる人はどれだけいるだろう。かつて期待を込めて票を投じて来た香港市民にとって、「愛国者治港」選挙はこんな楽しみすら奪ってしまったのである。。








