政治に興味があったようには見えないのに……

 この江選手擁立にかけられた熱意とは裏腹に、彼女が政治的な発言をするのを聞いたことのない市民は戸惑いを隠せない。

 実は彼女は、2021年に中国人民大学に修了した修士課程で、「一国二制度の優位」についてまとめた論文を提出している。ただ、それはネット上の情報や報道を論拠にしたもので、修士論文としての体を成していないと学術界で叩かれている。日々の言動とは裏腹の、不自然なまでに中国の意図に寄り添ったそのテーマに、そこでも「見えない力」のバックアップがあったのではないかという声が絶えない。

 さらに、立候補申込でもメディアに従業経験が全くない旅行業界から出馬する理由を問われた彼女は、「わたしの培ってきたスポーツマン精神は、どんな業界でも通用する」と答え、見守っていた人たちを唖然とさせた。

 結局のところ、そんな彼女の出馬は、「お上にとって聞き分けの良い、美人の若い女性が、特に政治的な意識もないまま、選挙の盛り上げに駆り出された」という印象をもたらしている。

香港の議員が見ているのは中国政府だけ

 こうした「前代未聞」のドタバタ劇を見せられている市民の思いは複雑だ。政府は選挙を盛り上げようと必死だが、一方で「投票率は重要じゃない。市民が現状に満足していれば政治に関心を持たないし、投票に駆られることはない」などと口にする政府高官もいる。

 だが、そんな物言いがおためごかしであることは、排除された民主派とその支持者ばかりではなく、伝統的親中派も気づいている。

 例えば、労働組合界出身の元親中派議員として知られる陳婉嫻さんはメディアのコラムで、「世代交代は麗しいが、最近の相次ぐ不出馬宣言には、どうしても『不出馬を強要された』という、不自然さを拭えない」と苦言を呈している。

 さらに、「愛国者治港」バージョン2の大キャンペーン中、親中派の最大政党「民主建港協進連盟」の創設主席だった曾ギョク成(「ギョク」は金へんに「玉」)氏が、英国総領事館主催の「チャールズ国王誕生パーティ」に出席していたことも明らかになっている。