「テレワークと副業禁止!」
最近増加する突然の方針転換

 これを解釈すると次のようになる。たしかに新興企業においては、標準労働者のような長期雇用と年功序列に基づく人事の考え方は希薄である。

 しかし、正社員を会社のメンバーとみなす観点で、正社員に無限定性を期待する。それが正社員のマッチョイズムを正当化する。

 これは新興企業においても、三位一体の地位規範信仰のうちの2要素(無限定性とマッチョイズム)の影響が色濃いことを意味する。

 さらに「われら(正社員)がお互いに、正社員とは会社の所有物だと考えている」という日本企業型パターナリズム(編集部注/強い立場の者が、弱い立場の者の「利益のため」という名目で、本人の意思に反して干渉、介入すること)が該当することも意味する。

 これは、太田肇(編集部注/経済学博士。同志社大学名誉教授)がいう共同体主義と同調圧力が、新興企業にも無縁でないことを示しているだろう。

 実際に、組織開発の専門家である沢渡あまねによれば、新興企業が突然に方針を転換し、正社員のテレワークと副業を禁止するという事例が最近増加しているという。

 それは、新興企業が自社の急成長を重視するあまり、正社員に本業の仕事だけに注力し、成果をあげることを求めるからだという(注3)。

 この副業を許さない新興企業の姿勢は、まさに日本企業型パターナリズムそのものだといえよう。日本企業型パターナリズムの問題は、JTC限定のものではなく、新興企業にも存在している場合があるのだ。

 日本企業型パターナリズムの特徴は、従業員エンゲージメントにも影響している可能性がある。

(注2)濱口桂一郎(2013)『若者と労働:「入社」の仕組みから解きほぐす』中央公論新社

(注3)沢渡あまね(2025)『「すぐに」をやめる――ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』技術評論社