「認知症が当たり前の社会」になった日本
これからは認知症と共に歩む時代に

――この政策の背景には、認知症の増加がありますね。

平井 24年度に九州大学の二宮利治教授が発表した国内推計によると、22 年に認知症の人は約443 万人、MCI(軽度認知障害)の人は約 559 万人と、合計で1000 万人を超えました、65 歳以上の高齢者の約 3.6 人に1人が認知症又はその予備群と推計されます。この人数は今後も増加し、50 年には認知症および MCI は合計 1200 万人を超える見込みです。日本はすでに、「認知症が当たり前の社会」「認知症とともに歩む時代」に入っているのです。

――プロジェクトは、具体的にはどのような活動をしていますか。

沼澤 企業の多くは、認知症という領域で何ができるのかを検討している段階です。そこで、「認知症の人と共に製品・サービスを開発しませんか」と呼び掛け、幅広い領域がカバーできるようにさまざまな企業に参画いただき、自治体や介護事業所などのパートナー団体と連携して検討を重ねています。パートナー団体には「こんな企業がこんな取り組みを検討していますが、興味がある認知症の人はいませんか」と声を掛け、認知症の人の参加を調整してもらいます。

 企業と認知症の人との実践の場では、認知症の人がニーズを伝えたり、企業が開発した製品・サービスの感想を担当者に伝えたりするなどの意見交換を行っています。実践のイメージ動画を経済産業省のYouTubeとの本プロジェクト特設サイトで公開しています。

――オレンジイノベーション・プロジェクトのサイトにある認知症の人の困り事の例では、「家電を使う場面で:新しい家電の操作が難しい」「移動の場面で:階段を降りるのが怖い」「調理の場面で:調理時間が分からない」「買い物の場面で:会計に時間がかかる」といった事例が示されていますね。こうした症状の背景には、「抽象言語の概念の理解が難しい」「自分の身体や空間認知が難しくなる」「時間経過の感覚が乱れる」「複数のことを同時に実行できない」等の認知機能のトラブルがあるとされています。

平井 認知症の人がどういうことで困っているのか。そうでない人にはなかなか分からない部分も多いといわれます。認知症の人の声を、企業の開発者が直接聞くというのはとても大切なのです。実践のイメージ動画と合わせてご覧いただければ、認知症の実情やこのプロジェクトの様子がよく分かると思います。

>>経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課担当官インタビュー(後編)へ続く