ここに中国で賄賂や横領が横行するようになった一因があります。

 日本人なら、どうせ賄賂を取るのであれば、税金を上げて、官吏にきちんとした俸給を支給したほうがよいのではないかと思うところですが、中国ではそうするわけにはいかないのです。

 前述のように税金を上げることは、儒教世界では悪政にほかならないからです。税金を上げた君主あるいは政府は、末代まで悪名を残すことになっています。中国では、賄賂を取るよりも、横領をするよりも、税金を上げるほうが「悪」なのです。

徴収した銀を着服しなくては
生活できないほど薄給

 科挙に合格しても役職につけない者も多くいました。

 こうした官員の実態を知ると、必ずしも役職につくことが幸せな生き方ではないことがおわかりいただけたのではないでしょうか。

 科挙に合格してエリートにさえなれれば、役人にならずとも収入を得る道はいくらでもありました。むしろ不本意な地方に飛ばされたり、窮屈な宮仕えをするぐらいなら、役職につかないほうがいいと考える士大夫も、実際にはたくさんいたのです。

 ところが、薄給しか得られないはずの官員が、非常に裕福な生活をしていたのが、中国の現実です。

 わずかばかりの俸給でそうした生活が望めない以上、そこには俸給のほかに莫大な収入が存在しなければなりません。

 どれほど莫大だったのかというと、河南省トップの高官の場合でいえば、実収入は銀20万両、なんと俸給の1000倍を優に超えていたのです。

 官員は、徴税したものを国庫に納めるのが仕事ですから、それをくすねるわけにはいきません。つまり、国が定めた税金のほかに、庶民から搾取した金額が、年俸の1000倍を超えていたということなのです。

 では、どのようにして搾取していたのでしょう。その1つをみてみましょう。

 税は当時、銀で支払われていました。納税者は細かい銀片を納め、役所はその集めた細かい銀を規格の「銀錠(インゴット)」に鋳直して中央に送りました。このとき、インゴットに鋳直す際には目減りが出るという名目で、その目減り分としてあらかじめ法定金額より割り増して徴収したのです。