強烈な帰属意識を持つ中国人と、うまく付き合うための最適な距離感とは写真はイメージです Photo:PIXTA

日中関係は、領土問題をはじめ解決すべき課題が山積している。しかし、歴史を振り返ると、江戸時代だけは両国の関係が比較的安定していた。ここに日中友好の正解が隠されている。『荘子』にも書かれている、中国人とうまく付き合うための正しい距離感とは?※本稿は、早稲田大学教授の岡本隆司『教養としての「中国史」の読み方』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

「中国人ではなく福建の金門の人」
華僑の少し変わった帰属意識

 中国は隣に位置しながら、日本人にとっては理解不能なことが多い謎の国です。

「1つの中国」を叫びながら、国内は常にバラバラで、長い中国史において1つにまとまったことは、実は一度もありません。

 にもかかわらず、中国人は世界中どこへ行っても、何世代にわたって外国で生活していても、中国人でありつづけます。その強い伝統と結束を支えているのは、国家ではなく民間のコミュニティです。

 中国人にとって、このコミュニティの存在は、われわれ日本人には想像できないほど重要です。かれらはそれがなければ、文字どおり生きていけないのです。

 しかも、それは海外であろうと中国内であろうと、まったく同じなのです。

 日本人は、華僑を異郷で暮らしている人々だと思っていますが、かれらは、異郷にいるという異質さを感じながら生活しているわけではありません。

 なぜなら、かれらは常にコミュニティの中で生活し、そのコミュニティは故郷の親戚や、故郷の先祖の墓地とつながっており、その埒外に出れば、中国の内外を問わず異境だからです。

 19世紀のアメリカの華僑について記した外交官の日記が残されているのですが、そこに非常に興味深い記述があります。