「人間関係が『付かず離れず』じゃなくて、『付きまくって離れまくる』になるんです。日本人の多くはもともと農耕民で、同じ村のなかでずっと定住してるでしょ?だからあんまり喧嘩できないんです。『付かず離れず』でまあまあな感じでいく。あんまり親しくなりすぎたくもないし。その点、元遊牧民のモンゴル人のコミュニケーションは激烈です」

 このことに最初に気がついたのは、先生がモンゴル人の友人と喧嘩したときだった。ひどい罵り合いになったそうだ。

「ぼくは日本人だから、あいつとはもう終わった、って思うじゃないですか。もう完全に終わったな……って落ち込んでたら、1週間くらいして、『よっ』とか言って現れるんです。え?記憶喪失になったん?って思うくらいナチュラルに再登場ですよ」

 友人は「よっ」とやって来て、ちょっと親父と喧嘩したから泊まらせてくれ、と言って先生のところに滞在したという。

「1週間ぐらいぼくのところで普通に暮らしてるんです。おかしいやん、なんで?って思いますよね」

貸し借りが成立しないのは
「家族共有」が前提だから

 ウランバートルで最初にホームステイしたときには、こんなこともあった。ホームステイ先のお父さんが先生の靴下を勝手に履いていたのである。

「えっ、お父さん、いまぼくの靴下履いてはるんやけど……言うべき?言わんべき?ってモヤモヤしてたんです」

 それから3日くらい経って、モンゴルはだいぶ冷え込んできた。留学したばかりで秋冬物の服を持っていなかった。そんなに寒くなるなんて全然思っていなかったのだ。

「そしたらお母さんが、あんた、これ着ていき、みたいな感じでお父さんのジャケットを貸してくれたんですよ」

 先生はお父さんのジャケットを着て学校に行き、帰宅した。お父さんにお礼を言おうと様子をうかがった。

「声かけようと思って様子を見てたんです。そしたらお父さん、すーっと向こうに行ったんです。何も気にしてませんよ、別に?みたいな雰囲気で」