ワンキャンパスで発揮される「クロッシング」
日野キャンパスに大学の施設がすべてそろい、高層階からは東京都心部まで一望できる
落合 本学は9学部1学環12学科をすべて日野キャンパスに集積させています。これは私立総合大学では結構珍しい。たいてい2つか3つにキャンパスが分かれていますから。
――ワンキャンパスのメリットをどのように生かしていますか。
落合 教員は学生を“わが学部”に囲い込みがちです。でも、ワンキャンパスに学科や施設がすべてそろっているという他大学にまれな特徴を活かさない手はないと考えました。そこで、2020年に始めた教育改革「明星大学教育新構想」のなかで、学科間の横繋がりを強める「クロッシング」という学修法を打ち出しました。具体的には、分野横断型のテーマを学ぶ授業や専門を異にする教員が複数集まって進める授業などですね。分野と分野を掛け合わせる「クロッシング」教育を始めた理由は、世の中が多方面に目を配れる人間を必要とするようになってきたからです。
――明星中高の今後の在り方として“越境の時代”を生きていくというものがありました。
落合 はい、それは中高に限りません。全学苑で取り組むべき課題だと考えています。私は学長時代に「クロッシング」導入に着手しました。全学共通教育(一般教養)の科目では、ある講義に生物学と倫理学の先生が一緒に登壇したりします。学生は同じテーマなのに異なる視点からはこう見えるのか、という経験をします。
――そうした試みは教える側の先生にもメリットがありますね。
[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす) 森上教育研究所代表。1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。
落合 「倫理学はそう見るのですか。そんなことは考えたことがありませんでした」という教員自身の驚きを学生に見せることが大事です。こうして教員自身が関心を広げながら講義することがだんだん増えています。文化人類学の私も、西洋史の先生が行っている「境界線上の日本学」という授業で毎学期ゲスト講義をしています。そこで何が起きるか?歴史学では事実を過去から順番に位置付けていき、「そして現在に至る」というように時系列で語りますよね。ところが、いま生きている人々を対象とする文化人類学では、「昔こういうことがあったんだそうだ」という話を聞くわけですから、現在の視点から過去を見ることになります。つまり、現在から過去を覗き込む。
――全く逆のアプローチなんですね。それは面白い。
落合 クロッシングを取り入れた授業では、学生から「先生たちの言うことは矛盾している」という意見が出ることもあります。しかし、矛盾というより視点の違いであり、どちらも可能なのではないかというように議論が進んだりします。これも、ワンキャンパスにいろいろな先生がいることを生かすひとつの方法ですね。前回お話した「ラウンドテーブル型」の学び方そのものです。
こうした学びを積み重ねていくと、学生から「自分の専攻がなぜあるのかが分かった」というような声が出るようになるんです。「他人を知ったので自分が誰だか分かった」というのですから、なかなかいい反応ですよね。クロッシング授業はとても評判が良いので、明星大学教育の目玉のひとつに育てていきたいと思っています。
――以前、梅棹忠夫先生の京都大学時代のお弟子さんにお話を伺ったとき、週1回くらいいろいろな分野の先生方が集まり、飲食しながら自分たちの弟子を呼んで発表させる場があったそうで、集まった皆で「それは違うやろ」「それほんま?」と全部文理融合でやるわけです。京大って面白いなあと思いました。
落合 近衛ロンド(京都大学人類学研究会)のことですね。まさにロンド(輪舞曲)のように議論をつないでいく。そこで育った若手の研究発表の場として『季刊人類学』という雑誌まで作った。クロッシングに話を戻せば、明星大学の場合、足りないところがあれば、例えばお隣りの中央大学の先生に来てもらってもいい。そうしたことも含めて、これも前回お話しした“Do it with others”という考え方を実行していくことが、これからの大学にとり重要になると思っています。







