重要な初年次教育と多摩での共創
落合 2015年に本学に赴任してから5年間ほど、1年生の初年次教育を受け持ちました。学部横断型の授業でした。まだ入学したばかりなのに、1年生でも自分の学部を代表しているような気負いがあるのが面白い。なかなか理系と文系の学生の間でコミュニケーションが進まないことも。そうしたとき、しばしば間を取り持ってくれたのが教育学部の学生でした。
――さすが教育者の卵ですね。他の先生方も関与するのでしょうか。
落合 入学した最初の学期が大切なんです。1年生の4~6月の時期の過ごし方で卒業できるかどうか決まるという東京理科大学の16年の報告が大きな反響を呼んでいたころでした。そうなると、最初の1年が終わるまで待っていては間に合わない。それではどうするか。なんと明星大学では、約2000人の新入生を学部横断で30人ずつ70ほどのクラスに分け、教員が全学出動態勢で担当する初年次教育を、10年にすでに始めていたんです。
ふだん接することのない他学部の1年生を相手にするのは教員には苦労でした。でも、他学部生を教えるのは珍しい経験でもあり、教員の教育能力を高める実践(ファカルティ・デベロップメント)の役割も果たしました。独自に開発したワークブックには学生が書き込むべき欄が118カ所もありました。当初は億劫がっていた学生も馴れるにしたがい記入が速くなっていきます。書く力が付いてきたなと担当教員たちも実感していました。
――初年次教育の効果ですね。
落合 初年次教育を始めてから、退学や休学などが目に見えて減りました。「自立と体験1」と名付けられたこの取組みには、日本高等教育開発協会(JAED)より14年度Good Teaching Award(優良教育賞)が授与されました。また、19年度には初年次教育学会第一回教育実践賞最優秀賞を受賞しました。他大学からの見学者も少なくありません。このような高度な初年次教育を実現することで、専門領域の勉強まで輝いてくるんです。この初年次教育は、形を変えていまも続いています。
――「人と多摩と、ともに」についてはいかがですか。
落合 学外の学識経験者を招いて「明星学苑 多摩共創会議」を理事長のもとで始めました。テーマは、多摩になくてはならない大学として歩んでいくために、これからどのような関係を地域との間に築くべきか、です。
じつは、教員は学生と一緒に、多摩に関するいろいろな試みを授業の中でふだんから行っている。調べたら60近くありました。その典型例が「明星SATOYAMAプロジェクト」です。もともとは緑のキャンパスをもっときれいにしたいということから始まったものです。コロナ禍で学生を連れて学外に調査に行けないので、生態学の先生が学生と構内を調べました。そうしましたら、絶滅危惧種の植物があること、豊かな湧水があることなどが分かりました。江戸以前からの古道がキャンパス内を走っていることも古地図で確認できました。
生態学や歴史学、建築学や経営学やデザイン学などさまざまな領域の先生方のイニシアティブで、学内や地域の里山を知ろう、専門にとらわれずにいろいろ試みようという推進力が生まれました、そして、相談を受けた私が22年に学長プロジェクトに格上げしたのが「明星SATOYAMAプロジェクト」の始まりでした。多摩は里山が豊かな地域です。プロジェクトを学内に限定しては里山の広がりを活かせませんので、自治体や企業、さまざまな大学、自然保護団体、個人などが緩やかなネットワークを作っているのがこのプロジェクトの特色です。ですから、他大学に移る先生がいても、このネットワークでつながっているのでプロジェクト・メンバーを続けることができます。
――ネットワークによる共創の例ですね。
落合 はい。持続的活用のために人間が少し手を加えた自然を意味する「里山」という考え方は海外でも反響を呼ぶようになりましたね。「satoyama」という言葉自体が、「sushi」同様、国際的に通用するようになってきました。ローカルがグローバルにつながっていく例とも言えますね。
――少子化という困難な時代に、中堅私大がいかに生き延びていくのか。大学の特徴や地域との深いつながりをさらに強化して、持っている経営資源をすべて活かしていこうという取り組みが印象的でした。
教室と異なり、仕切りや扉もない千畳敷の「MEISEI HUB」は、学部にとらわれずに学生が集う新しい活動スペース。開放的な雰囲気の図書室に隣接する(右下)









