スイーツを目の前にした女性写真はイメージです Photo:PIXTA

ショウジョウバエの寿命を調べたある実験で、意外な結果が明らかになった。摂取カロリーよりも、餌に含まれるタンパク質の量が寿命に影響を及ぼしているというのだ。この事実は長寿研究にさまざまな可能性をもたらす。薬学博士の小幡史明氏が、食と寿命の関係の奥深さに迫る。※本稿は、薬学博士の小幡史明『「腹八分目」の生物学――健康長寿の食とはなにか』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

食餌制限で寿命が延びる要因は
カロリーの制限ではない

 食餌(しょくじ)制限のメカニズムがカロリーの制限であるか否かについては、長い論争があった。

 もしも寿命の制御にカロリーが重要であれば、炭水化物、脂質、タンパク質のどれを制限しても寿命は延長するはずである。また、例えば炭水化物を減らした分、脂質でカロリーを補ってやると、寿命が変わらないということになる。

 他方、もしカロリーが重要ではないとすれば、どれかの栄養素だけを制限したときだけ寿命が延長するはずである。あるいは、これら3つのバランスが大事なのかもしれない。

 ここでは、ショウジョウバエを用いた興味深い実験を紹介しよう。

 一般的には、ショウジョウバエの餌には糖(グルコースまたはスクロースを使うことが多い)と酵母を使う。酵母にはタンパク質が豊富に含まれており、糖や脂質は比較的少ない。特に酵母の抽出物を使うと、かなりタンパク質豊富な餌ができる。

 まず、糖(炭水化物)と酵母(タンパク質)の両方を豊富に含む餌と、両方とも減らした食餌制限餌をつくる。予想通り、両方減らした場合には寿命は大きく延長する。