大食いの女性写真はイメージです Photo:PIXTA

健康に良いとされる「腹八分目」で食事を終えることは、実は想像以上に難しい。動物の体内には“タンパク質を求めて食べ続けようとする”強靭なプログラムが備わっていることが、近年の研究で明らかになっているからだ。薬学博士・小幡史明氏は、食餌(しょくじ)制限が寿命を延ばす一方で、思わぬ副作用を引き起こすと指摘する。食べない選択がもたらす意外な代償とは?※本稿は、薬学博士の小幡史明『「腹八分目」の生物学――健康長寿の食とはなにか』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

ショウジョウバエを使った
食欲の研究「CAFE(カフェ)試験」

 動物はタンパク質に飢えている。だから、その摂食量をあらゆるところで感知するためのしくみを高度に発達させてきた。アミノ酸を「うまみ」として感じるよう進化したこともその一端であろう。味覚だけではない。実は、腸でも「おいしさ」を感じていることがわかってきているし、それ以外の内臓でも「タンパク質の過不足」を敏感に感じるしくみがあることが明らかになってきた。ここではその例をいくつか紹介したい。

 バッタもヒトも、タンパク質の摂取量を感知するしくみをもっているが、これはショウジョウバエでも同様である。ショウジョウバエでは、例によって遺伝学が使えるから、どの細胞がどのようにタンパク質を感知しているのかを研究するのは比較的容易である。ショウジョウバエの脳には14万の神経細胞が存在し、その神経同士の接続マップが高い解像度(1細胞レベル)で明らかにされている。