しかし、タンパク質も、ある一定以上に減らすと栄養欠乏になるはずである。そこで、炭水化物の量を固定して、タンパク質摂取量をさまざまに変えてみよう。すると、タンパク質摂取量が少ないときは短寿命、逆に多すぎる時も短寿命というパターンが見えてくる(図10)。

図10:タンパク質接種量と寿命の関係の概念図同書より転載 拡大画像表示

 実はこれが、食餌制限の難しいところである。全てが程度問題なのだ。ある一定の制限値を超えるほどに減らしてしまうと、かえって健康を損なうのである。

 そうなると、腹八分目でいうところの食べすぎ、つまり満腹というのは一体何なのかという疑問が湧くだろう。

満腹を基準にしつつ
「腹八分目」を見極める

 通常、動物の体内では「タンパク質を一定量摂取したい」という欲求がある。したがって、自由に食事を摂らせると、寿命が最大になる、つまり図10の山の頂点に来るような位置よりも多くタンパク質を摂取する。

 動物は本質的にタンパク質に対する高い欲求(食欲)をもっており、腹八分目を意識しないと老化を早めるほどにタンパク質を食べてしまうのである。腹八分目で長寿になるには、その満腹から少しだけ減らすとよいかもね、といった感触である。

 さて、タンパク質を減らすと健康長寿になるというハエの実験結果をみると「いや、待てよ」と思う読者もいるだろう。健康に関心がある人、いや今や関心がない人でさえ、糖質制限という言葉を聞いたことがあるだろう。

 甘党の方はケーキやチョコレート、そうでない方もご飯やラーメンを食べすぎないように気をつけているのではないだろうか。炭水化物の摂りすぎは肥満やメタボリックシンドロームにつながり、結果として寿命を縮めるはずである。いや実際、その通りである。肥満はそれだけで慢性的な炎症をおこし、慢性炎症は老化を促進する主要な因子である。