実験中写真はイメージです Photo:PIXTA

「食べすぎを控えると長生きできる」。古くからそんな言葉が信じられてきたが、果たして本当なのか。“食と寿命”の関係を解明するため、長年多くの科学者たちは動物実験を重ねてきた。「腹八分目」がもたらす生物学的効果の正体を探る。※本稿は、薬学博士の小幡史明『「腹八分目」の生物学――健康長寿の食とはなにか』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

明確に切り分けるのは難しい
食と長寿の関係

 腹八分目という言葉を最初に使ったのは、貝原益軒という江戸時代の学者ではないかとされる。貝原は1712年に、健康で長生きするための秘訣を事細かく記載した『養生訓』を上梓した。貝原自身も長寿であり、本書をしたためた際にはすでに80歳を超えていた。与えられた身体を大事にし「養生の術」を身につけることで、健康を害することなく幸せに過ごすことができ、その要諦は「何事も行き過ぎないこと」であると記した。とくに食べすぎに対しては強く戒めている。

 正確にいつからこのような考え方があったかは定かではないが、健康長寿(究極的には不老不死)は、人類の長い歴史の中での1つの悲願であり、そのために食事の量を意識すること自体は、かなり古くからなされていたのではないかと思われる。適度に食事を制限することにより長生きできるとの考え方が、18世紀初頭の日本ですでに広まっていたというのは興味深い。

 食と長寿の関係を明確に切り分けるのは極めて難しい。例えば、健康で長生きしていた人が、食べすぎない人ばかりだったからといって、食事と健康に因果関係があるかどうかは別問題である。