炭水化物を摂取しすぎると高血糖になり、これ自体に毒性があるし、逆に減らしすぎてもエネルギー不足で死んでしまう。だからタンパク質と同じで、適度に制限するのがよいのではないかと思われる。
およそ口から入る多くの栄養素が、過剰であれば毒になり、欠乏すれば害である。何もタンパク質だけが特別重要ではないのではないか。また、タンパク質の摂りすぎといっても、炭水化物が少ない場合には不足するエネルギー(カロリー)が補えるので、むしろ摂った方がよいということにならないか。
実験科学は、こういう場合に極めて有効である。直感に反するかどうかはさておき、まずは極めて原理的なところから問い直そう。
寿命が最大化された餌には
どんな特徴があるのか?
先ほども出てきた、横軸にタンパク質摂取量、縦軸に炭水化物摂取量を示すグラフ(図9)を考えよう。問題は、この二次元に展開された栄養バランスマップ上の一体どこに寿命の最大値が来るのか、ということである。影響するのはタンパク質だけではないはずだ。であれば、右側に偏りすぎても、上側に偏りすぎてもダメなはずだ。
もちろん、遺伝子や環境要因は極力排除した上で、大量の動物が必要であるから、やはりショウジョウバエに登場してもらおう。さまざまなタンパク質:炭水化物比率(Protein:Carbohydrate ratio,P:C比率)の食事を与えて、彼らがどのくらいの寿命を示すか。
結果は、驚きであった。実は寿命が最大化されたのは、タンパク質の摂取が少なく、炭水化物の摂取が多い群であった。P:C比率が1:16くらいになるようなところで、寿命が最大化されたのである。
もちろん、カロリーが大幅に減るような制限ではだめだし、信じられないくらい偏りのある餌ではだめだ。
でも、「常識的な範囲」では、やはりタンパク質量が低い餌では長寿であり、炭水化物を低くしても、寿命延長効果はあまりなかった。実はこの傾向は、マウスでも同様であることが報告されている。







