食事の効果を議論するときは、「通常の食事」(実験的にはコントロールと呼ぶ)がどういう状態かを理解し、できればそれにクセがないのが重要なのである。
もちろん、餌を食べる実験動物の生理状態(運動、代謝など)や遺伝子、あるいは腸内細菌(コラム参照)にもバリエーションがあるから、予想以上にややこしい問題である。
例えば、アフリカのハエと日本のハエでは、全く違う気候に適応しているので、全然性質が違う。もちろん、日本内でも北と南では違うだろう。低地と高山でも異なる。代謝や運動量、体の大きさや産卵数も違う可能性がある。このような違いを記述し、その原因を考察するのは、生態学が得意とするところであり、そこから面白い情報が得られる。しかし、餌と寿命の関係に生態学的な観点を加えるとややこしすぎるので、ここはグッとこらえて、実験動物側のバリエーションは極力排除して実験を進めよう。
なかなか解消されない疑問
「“満腹”とは一体何か?」
いったん、実験動物(ハエ)側は1種類であると仮定して、ここでは栄養バランスについてだけもう少し詳しく考えよう。前述の実験では、4種類の餌を準備した。通常の餌、炭水化物が少ない餌、タンパク質が少ない餌、両方少ない餌の4種類である。この結果を、わかりやすく縦軸に炭水化物、横軸にタンパク質をとって2次元の平面上に表すと、4点のデータポイントが描ける(図9)。さて、このようなグラフを描いてみると、とにかく横軸の左側に行けば行くほどよい、つまり、摂取するタンパク質が少ないほど長寿であると錯覚する。
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