さて、では、炭水化物とタンパク質のどちらが大事なのか、あるいはカロリーが大事なのかを確かめたい。それぞれのカロリーは計算できるから、糖を減らす場合と酵母を減らす場合とで同じカロリーになるように餌を調製することができる。カロリーが大事であれば、どちらか一方のみを制限しても(カロリーが減っているわけだから)、寿命は延長するはずである。

 結果は一目瞭然だった。

 糖を減らしても、寿命はそれほど変化しなかった。一方、酵母を減らした場合には、大きく寿命が延長したのである(図8)。つまり、食餌制限で寿命が延びるのは、カロリーの制限ではないことがはっきりと示されたのである。と同時に、この実験の結果から、タンパク質の制限によって寿命が延びる可能性が浮上したのである。

図8:ショウジョウバエにおける日齢と生存率の関係(生存曲線)文献14… Mair, W. et al.: PLoS Biol. 3, e223 (2005). イラスト/安斉俊(同書より転載) 拡大画像表示

炭水化物は寿命の長さに
全く影響しないのか?

 先ほど紹介した実験の結果からは、どうやら餌に含まれるタンパク質を制限することが、長寿スイッチを押すのに大事らしいことがわかった。では、炭水化物は寿命に全く影響がないのだろうか。

 餌の中の栄養素をいろいろと変化させてひたすら寿命を測定すればよいのだが、これはなかなか骨の折れる仕事である。そもそも、栄養操作の実験では、餌にどのような原料(例えばどのようなタンパク質源)を使うかによって結果は変わってくる。また、もともとの餌のバランスがどのようになっているかによっても影響される。

 例えば、たまたま使っていた餌のタンパク質が多すぎただけかもしれない。とりすぎのものを減らせば健康になるのは自明の理である。野菜をとろうというスローガンが成り立つのは、野菜が足りていないからである。野菜ばかり食べる村があれば、おそらく「肉を食べよう」というスローガンが必要である。