ショウジョウバエを入れてしばらく置いておくと、どちらかの餌を好んで食べた場合には、お腹にどちらか一方の色がつく(ショウジョウバエのお腹は色が薄いので、中身の色が透けて見える)。こうして、それぞれの色がついたショウジョウバエの割合を数値化して、嗜好が偏っているかを検討することができる。
このような実験系を駆使すると、ショウジョウバエの摂食量をある程度正確に知ることができる。例えば、タンパク質を欠乏させると、食欲が上がる。全体の食欲のみならず、タンパク質への嗜好性が大幅に増強されることがわかる。こうした実験系を使うと、食行動に関わる分子メカニズムも解明できる。
そこで、ショウジョウバエにタンパク質やアミノ酸を制限した餌をしばらく食べさせ、その摂食行動や、体の中におこっている変化を詳しく調べてみよう。分子レベルの理解を試みるので、遺伝子や代謝を詳しく分析する。
すぐ食べ過ぎる強靭なプログラム
腹八分目で止めることは難しい
その結果、体内のアミノ酸が低下すると、腸や脂肪組織から、食欲を刺激するようなホルモンが出てくることがわかった。研究を進めていくと、実はこのような「食欲増強ホルモン」や「嗜好性増強ホルモン」が、たくさんあることがわかってきた。
あちらこちらの細胞から、さまざまな種類の物質が出てきて、タンパク質の摂取量を調節するのである。そのしくみは非常に巧妙で、動物の食行動の奥深さを感じるばかりである。と同時に、そのようなしくみがあるから、「腹八分目」で止めることが極めて難しいのだ、ということが腑に落ちる。
「自分は意志が弱くてすぐ食べすぎてしまう」と思う人には慰めになるかもしれないが、事実、我々は食べるための強靭なプログラムにがんじがらめだ。全身のあちこちから、「タンパク質を食べろー!」という声が上がって、ちょっとでも不足すると食べずにはいられなくなる。







