しかし、さらなる朗報をお伝えしよう。少なくともショウジョウバエでは、食欲刺激性のさまざまなホルモンやその回路を遺伝学的に破壊すると、見事に食欲を抑えることが可能なのである。まだまだ研究の発展途上であるが、より研究が進めば、このような「食べすぎちゃうプログラム」を抑制する方法も開発されるはずだ。
最後に、腹八分目の重大な副作用について紹介しておきたい。驚くべきことではないのだが、食餌制限による寿命延長は負の作用を伴う。
まず、第一に影響されるのは成長である。成長期に食餌制限をかけた動物は、ショウジョウバエでもラットでも、最終的な個体サイズが小さくなる。小さいのみならず、成長期そのものが長くなる。
栄養を最大限摂取し、インスリンシグナルの活性がマックスの状態で最大成長させるよりも、ややブレーキをかけた状態で(小さめに)育つ方が、その後の健康寿命が延びるのである。とはいえ、栄養を制限しすぎると、成長も阻害し寿命も縮むから、このあたりの塩梅は大変難しい。
動物の食行動の奥深さ……
腹八分目の重大な副作用!
腹八分目のもう1つの(動物学的な)副作用は、生殖能力の低下である。これはトレードオフとよばれ、一般的にみられる現象である。食餌制限をかけたミジンコは、寿命が30%延びる代わりに、子どもをうむ数は4分の1に減る。
ショウジョウバエも、寿命が延長されるような食餌制限の条件では、多くの場合産卵数が減少し、やはりトレードオフが発動する。マウスやラットでは、離乳直後から食餌制限をかけると、性成熟が遅れる。しかし、性成熟を終え、成長ステージが完了した後に食餌制限をかければ、この副作用は回避することが可能である。
成長・生殖と個体の老化が表裏一体であることについて、科学的な考察をしてみよう。生物の進化の歴史においては、この世界でより繁栄するための鍵が何か、が大事である。
ある生物の数を増やすには、たくさんの子孫を残す必要がある。逆に考えると、たくさんの子孫を残せる個体が、その種の中でより繁栄する。







